弾丸dream
□『キミ』と言う名の最高傑作
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-『キミ』と言う名の最高傑作-
ピーンポーン…
「……はい」
インターホンが鳴る。真っ白なキャンバスの前に座る私はゆっくりと席を離れ、ドアを開けず返事だけをした。
『苗木だけど…』
「なに?」
『あの…部屋に入って話してもいいかな?』
「……いや」
誰も入れたくない。誰も入れさせない。そうすれば誰も私を殺さないし、私はずっと絵に没頭出来る。
疑いたくはなかったけど、このコロシアイを通して私は知った。
人は欲には勝てれないんだって事を。平然とした表情をした裏腹には真っ黒な欲望が渦巻いてるって事を。
私は別に『卒業』したくなかったし、第一、モノクマが見せたDVDで心は一切動かなかった。
セレスさんが言っていたように環境に応じ、ずっとここで絵を描いて生活しようかな、って思っている。
外の世界に出ても私の絵の才能を欲する人や、嫉妬深く思う人達ばかりだから。
でもここの人は違う。皆個性的で、皆人とは違う何かを持っている。
『じゃ、じゃあ、ここで言うね?』
「うん」
『山田くんと石丸くんの死体が…発見されたんだ』
1、2、3。3秒間の間が空く。そして私は口を開く。
「…そうなんだ。じゃあ、捜査頑張ってね」
『ちょっと待って、桐枝さ--』
ブツリとインターホンを切り、私は再び椅子に腰掛け、筆とパレットを手にとった。
「はぁ……」
赤の絵の具をチューブから出し、パレットに沢山のせる。
『桐枝殿の使う色合いは本当に素敵ですな!これを僕の同人誌の背表紙に使ったらどれだけ良い作品になる事か…』
山田くんは少し、いや、変わった人だった。よく変な妄想に入るけど、アニメや漫画の事になると人一倍喋るし楽しそうに話していた。
私とは違う系統だけど、お互い絵を描いている事は同じで話が合う時があって漫画の事を教えてもらったり、私は彼に色の事について教えたりしていた。
赤い色の絵の具を筆にべったりとつけて、キャンバスに塗って行く。
『おはよう桐枝くん!!!今日も清々しい朝だな!』
声が大きくいつも明るく、そして熱く振る舞う石丸くん。おせっかいな所は多々あったけど、彼なりの優しさだったのかもしれない。
パニックになると彼には似合わない大粒の涙を流し、だらしなく鼻水まで出てきて…精神面的に弱い人だった。きっと、風紀委員としている事によってまだ平常心を保っていたんではないのかな。
黄色、白、そして別に作ったオレンジ色の絵の具をキャンバスに付け足す。
『そ、そのような不純な行為はい、い、いけないぞ!直ちにやめたまえ!』
抱きついたり、手を繋ぐだけでも不純な行為と言い顔を赤らめ恥ずかしがる石丸くん。
『桑田くん!好き嫌いはいけないぞ!この料理を作ってくれた人びとの努力を君はなにも思わずに捨てるのか?全く……』
まるで母親のように注意をし、語り出す石丸くん。
『なに!?お、大神くんは女性だったのか…?くっ、僕とした事が…クラスメイトの事を全くわかっていなかった…これでは風紀委員として失格だあああああ!!』
真面目だと思いきや、実は天然でさくらちゃんや千尋ちゃんの性別がわかっておらず、ショックを受けていた石丸くん…
最後に黒をつけたして筆を降ろす。
あれ?どうして石丸くんの事ばっかり出てくるんだろう?
ハッと我に返りキャンバスを見つめる。
「……っ!」
完成したキャンバス一面には紅い色の夕日と雲。そしてとある人の黒いシルエットがその夕日に向かって佇んでいた。
そのシルエットは私が一番好きだった人の姿によく似ていた。
両手に腰を当て、今にも「見ろ!夕日がとても綺麗ではないか!」と笑顔でこっちを振り返りそうな雰囲気だった。
あぁ、私は石丸くんの事が好きだったんだ。
単純バカだけど、何事にも真面目に取り組んでいた石丸くんの事が…私は…好きだったんだ…。
「うっ………あ、あぁ……あああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
心がキリキリと締め付けられ、涙でいっぱいいっぱいになる。今までにない感情が込み上がってくる。
泣いてもなにも変わらない事は分かっている。死んだ人はもう帰ってこない。わかってる。だけど今は泣きたかった。
もっと前に伝えればよかった。
『大好き』って…。