短編集
□恋心を殺すまで、
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私は名字名前。図書隊に入隊したばかりの訓練生です。
これといった取り柄も無い私ですが何とか入隊することができ、毎日同期の郁や麻子と一緒に軍事訓練と座学に励んでいます。
ところで私には最近、気になる人がいるんです。
「あ、名字さん。ちょっといいかな?」
『あっはい、小牧教官! 何でしょうか?』
それがこの人、小牧幹久二等図書正。
私の所属する訓練隊の教官です。
「これを三階まで運ぶの、手伝ってもらっていいかな?」
『分かりました』
小牧教官はすごく良い教官です。
優しく、時に厳しく私たちを指導してくれる小牧教官は私たちの憧れです。
――私の気持ちがただの憧れかと聞かれれば、そうだと断定できる自信はありませんが。
「ありがとう、名字さん。助かったよ」
『いえ、私も教官のお役立てて光栄です!』
私のこの気持ちは多分――いえ、間違いなく尊敬の中に恋心が混じっています。
でも、分かってるんです。
この恋心は、絶対に叶うことはないって。
「名字さんは業務部志望だったよね?」
『あ、はい。私じゃ郁のように防衛部でやっていける自信はありませんから』
「そっか、じゃああと少しの期間だけどよろしくね」
『はい! 御指導御鞭撻(ごべんたつ)のほど、よろしくお願いします!』
麻子が教えてくれたんです。
私には絶対超えられない壁があるってこと。
――「ねぇ名前、あんたって小牧教官の事が好きなんでしょ」
――『へっ!? あ、麻子何をいきなり』
――「見てりゃすぐ分かるわよ、あんた笠原の次の次くらいに分かりやすいから」
――『……』
――「でも忠告しといてあげるわ」
――『え、忠告……?』
――「小牧教官、すごく大切にしてる幼馴染みの女の子がいるらしいの。これは堂上教官からの情報だから間違いない」
――『…………』
――「名前、悪いことは言わないから早めに諦めた方がいいわ。その方が自分のためよ?」
だから、この優しいはただの社交辞令なんですよね。
早く諦めなければ辛くなるのは自分だってことぐらい、私にも分かってるんです。
でも、ほんのあと少しの時間だけでいいですから、夢を見させて下さい。
淡い恋心を封印するまで、もう少しだけ時間を下さい。
恋心を殺すまで、
(優しすぎるということは、)
(冷たいよりも残酷でした)