銀魂 短編


□さようならは言わせない
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いつもと違うアイツの様子に嫌な予感を覚えた俺は、咄嗟にその華奢な腕を捕まえていた。

こちらを見上げる蒼い瞳が、驚いているのか大きく見開かれている。

俺自身も自分の行動と嫌な胸の高鳴りに驚いていた。

「サド…!」

「サンタクロースかお前は。家出でもしてきたのかィ?」

パンパンに膨らんだ風呂敷を背負い、一人で歩いていたチャイナに向かって、俺は茶化すように言う。

いつものように、悪態を吐き返してくるはずだった。

だが、彼女の口からは薄々感じていた、聞きたくない台詞が弱々しくこぼれたのだった。

「私…地球を出るネ」

自分でもわかるくらい、顔が引きつった。

うつむきながら悲しげな表情で今にも泣きそうなチャイナに、多少ぎこちないポーカーフェイスを保つ。

ひきつった笑みを浮かべ、少し小さくなった声で言った。

「はっ…ずいぶん大がかりな家出だな」

「そうアルな。なんで最後に会うのがお前なんだヨ…」

「悪かったな……で、いつ帰って来んでィ」

「地球には…たぶん帰らないアル。パピーと一緒に、とうぶん地球以外の星でえいりあんばすたーやるから…」

旅を終える場所は地球ではなく、故郷の星だという。

どこにあるかも分からない。

どれだけ遠いのかも分からない。

そんな場所に行ってしまう彼女を、俺は引き止めたかった。

なぜなら、惚れているから。

やっと、この気持ちに気づいたというのに――この手を離したくなかった。

だが、そんな間柄でないことは百も承知だ。

(今の俺に、コイツを止める資格はねェ)

なら、“今の俺”を変えてしまえばいいんじゃないか?

いや、変わるべきなんだ。でなければ、きっと後悔する。

この最後のチャンスを逃すわけにはいかないんだ。

彼女がどう思おうが、俺の気持ちはもう揺るがない。それだけははっきりしている。

振られたところで、彼女と二度と会えないのなら、その後の心配もない。

なら、俺が彼女にかける言葉は、もう決まっている。

素直になれなかった、ひねくれた自分を捨て、俺は彼女を放すまいと力強く抱きしめた。

「行くな…」

「え…?」

「行くな…俺の側にいろ」

「サド…お前っ…!」

頬を赤らめたチャイナに俺は少し期待した。

そして願った。

彼女が自分の前から消えないように、と。

「わ…私…実は、その…」

そっと体を離して、彼女が上目遣いでこちらを見た時だった。

「タイムアーップ!お熱いねェお二人さんよォ」

「!!」

聞き覚えのある声に俺たちは、辺りを見渡した。

そしてふと視界に入った見覚えのある銀色は、いやらしい笑みを浮かべてこちらを見ていた。

ひやり、と変な汗をかく。

「だ…旦那ァ…」

「おうおう沖田くん、いい雰囲気のところ悪いんだけどさ、神楽は連れてくぜ。そろそろ船がでっからよ、オイ、新八とお妙も待ってるし、行くぞ」

「え?ちょっ、待ちなせェ!チャイナ、お前はっ」

ターミナルの中へ向かう二人の背を追おうとしたら、旦那がこちらを振り返って、そして言った。

「そんな心配すんなよ、神楽はすぐ帰って来るから」

「は?何言ってんでィ。だってコイツは――」

「いや、商店街のくじ引きで新八が南国の星三泊四日の旅当ててきてよ。志村兄弟と俺と神楽で、ちょっくら行って来るわ、バカンスに」

「え?」

「心配すんな、エイリアンバスターになるにはまだ早ェ」

「え?」

「あ、土産はねーからな」

「いや…え?」

「じゃ、帰って来たら神楽のことヨロシク」

やっと素直になった沖田くん――と彼は付けたし、チャイナを引き連れて再びターミナルのほうへ足早に歩いて行った。

南国の星へバカンス?三泊四日?

と、いうことは、神楽はエイリアンバスターの旅に出るわけでもなくて、四日後に地球に帰ってくる――

(え、俺、ハメられたんじゃね?)

呆然と立ち尽くす俺はしばらく状況を理解するのに苦しんだ。

そんな俺の元に、なぜだかチャイナが駆け足で戻って来たので、俺は腑抜けた顔を再び引き締めた。

真っ白な肌は林檎のごとく真っ赤に染まり、唇を噛み締める彼女の姿は正直、理性を崩されるものがあったが、
何か言いたげな様子に俺はただ黙ってその蒼い瞳を見つめ返す。

そのあと消え入ってしまいそうなほど小さな声で告げられた彼女の言葉に、俺はニヤリと口角をつり上げた。

「てめェ…帰ってきたら覚えてろィ…」

俺を散々もてあそんでくれたんだ、仕返ししないと気が済まない。ドSとしては。

「し、知らないネ!私は悪くないアル!」

そう言って逃げるように走り去って行く小さな背中を、俺は満足げに見つめた。

顔が、熱い。

自分の顔が火照っているのが分かって、余裕ねェなァ、と自嘲する。

ようやく事態を受け入れた頃、安心したのか俺は呑気にあくびをした。




さようならは言わせない




「神楽ァ、それはな、要するにそういうことだから。ちゃんと避妊はしなさぶへらァ!」

「銀ちゃんのバカァ!変態!ロリコン野郎!」

「待て!ロリコンは沖田くんだろうが!」

「銀さん!あなた神楽ちゃんに何したんですか!変態!ロリコンですか!」

「姉御ォ!」

「だからァ!俺はロリコンじゃねェェェ!!」

「…銀さん、恥ずかしいんで静かにしてください」

「うるせェ、シスコンダメガネ」

「誰がシスコンだァァァァァ!!それに僕はダメガネじゃ(強制終了)」



end

→失礼致しました

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