銀魂 短編


□家出少女
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やっとのことで仕事を終えて、さて今から風呂に行ってさっさと寝よう、という時。

何の前触れもなく勢いよく開いた襖に、土方は肩をびくつかせて驚いた。

側に置いてあった刀を咄嗟につかみ、引き抜くとともに振りかぶった。

しかし刀は虚しく空を斬る。

「誰だ!総悟か!?」

声を張り上げ辺りを見渡すと、探していたものはすぐに見つかった。

桃色の髪と、真っ赤なチャイナドレスの鮮やかな色が目に飛び込んでくる。

土方はそれに見覚えがあった。

「…こんなとこで何してんだ、チャイナ娘」

万事屋に居候する天人の少女――神楽に土方はくわえていた煙草を噛み締め苦々しい表情でたずねた。

神楽は何も言わずズカズカと部屋に入ると、部屋の片隅に座り、膝を抱えて顔を伏せた。

その様子に土方は何やら面倒なことが起きたのだろう、と察する。

煙草を灰皿に押しつけ、盛大にため息をついた。

「何しに来たんだよ、こんな夜中に!つーかどうやって」

「私は悪くないネ」

「あ?」

明らかに不機嫌な様子で小さく言った彼女が何を考えているのか、土方はその姿を睨みながらいぶかった。

「家出か?」

単純に浮かんだことを口にしてみれば、神楽は力無くその小さな頭をコクンと縦に振った。

と、なると原因はおそらく銀時だ。

何度目かのため息をつくとともに、自分の黒髪をかきむしる。

女人禁制の屯所、しかも副長である土方の部屋に居座り、ここを出ていく気はないらしい。

(さっさと追い返さねーと見つかったらただじゃすまねェ…)

沖田にでも見つかったら確実に殺される。

とにかく今の状況にはデメリットしかなかった。

とはいえ、帰れと言って素直に帰るような彼女ではないだろうし、帰ったとしてもこの深夜に万事屋まで無事にたどり着けるとも限らない。

それに、彼女とは特別仲が良いわけでもなく、むしろ真選組とは犬猿の仲であって、そんな場所にわざわざ家出して来るなんて、彼女はよほどの覚悟があってのことであるはずだ。

それをみすみす見逃せないのが土方だった。

「チャイナ、万事屋と何があった?」

神楽の側に歩み寄って、彼女の目線にしゃがみこんで言う。

おもむろに上げられた顔は不機嫌という文字が書いてあるかのごとく歪んでいて、深いマリンブルーの瞳には輝きがない。

「…私は、憎たらしくて生意気で、食い意地はったガキにしか見えないアルカ?」

「は?」

「色気も可愛げもないガキアルカ?」

「…………」

拗ねた様子で頬をふくらませて言う神楽に土方は無言になる。

「やっぱりそうダヨナ。誰が見たって私はただのガキアル…」

「……お前……好きなのか?」

「え、誰がヨ?」

「誰って……万事屋が好きなんじゃねーのかよ?」

「なっ!なんでそうなるネ!違うアル!」

バッと顔を上げ、神楽は今日はじめて声を張り上げる。

土方が、静かにしろ!と慌てて神楽の口をふさいだ。

土方の憶測はこうだ。

神楽は銀時に惚れていて、しかし銀時は神楽を子供扱いして相手すらしてくれない、それに怒った神楽が、拗ねて家出をしてきた、と、そう思っていたが、どうやら少し違うようだ。

「…お風呂入ってたら銀ちゃんに覗かれたアル」

「覗きだァ?」

「銀ちゃん、べろんべろんに酔って帰ってきて……覗きっていうか、勝手にお風呂に入ってきたアル」

ひどく酔っぱらった銀時は、家に着くなり真っ直ぐ風呂場へ向かった。

そこで、入浴中だった神楽と鉢合わせしてしまったわけなのだが、その時、恥じらいながら怒る神楽に彼はこう言ったのだ。

『そう怒るなって…ガキの身体にゃ興味ねーから。俺、そういう趣味ないしー』

酔っているとはいえ神楽にとってはあまりにも酷な台詞に、銀時を殴り付けるなりそのまま家を飛び出してきたのだった。



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