銀魂 短編
□おいで
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「銀さーん、洗剤といちご牛乳買ってきたよー」
スーパーの袋片手に、私は襖を開けた。
そこには、ソファでジャンプに読みふけっている、万事屋の主、坂田銀時がいた。
彼とは恋仲で、よく万事屋に来ては、掃除だの洗濯だの事務だの手伝ったりしている。
まぁ、仕事なんて滅多にないから、事務仕事はさほどやらないけれど。
おつかいもその手伝いの一つで、私は進んでやっていた。
そういう、主婦的なことが好きといえば、好きだったから。
けれどそんな私を見て不満がるのが私の彼氏で…
「咲夜ちゃーん」
「はーい?」
「あのさぁ…家のこと手伝ってくれんのはすげぇ助かるんだけどよ、あんま、無理するな」
「別に、無理してないよ?むしろ、楽しい」
「またまた、そんな強がっちゃって。オレはなーんにも楽しくないよ?」
要するに相手をしてくれ、と、そういうことだった。
「じゃああたしは何をしたらいいわけ?」
と、尋ねれば、彼は私に手招きをする。
立ち尽くしている私に、「おいで」と言って、膝の上に座るように促された。
「こうしてればいい」
そう言うと、私を膝に置いたまま、またジャンプを読み始めた。
だから、私はこの状態でどうしていろと?
とりあえずは、おとなしく座っておく。
「…重くない?」
「ぜーんぜん。むしろもうちょっとふくよかになってもいいんじゃねーの」
「胸がないって言いたいの?どこにも膨らみがないって言いたいの?」
「いだたたた!潰れる!」
私は思い切り彼の身体にもたれかかって、ソファと挟み撃ちにしてやった。
彼は涙目で、必死に抗議をする。
「違う違う!確かに胸はもう少しあったほうが嬉し――痛っ!すみません!なんでもないです!咲夜はこれくらいが調度いいです!」
仕方ない、と言うように私はフッと笑うと、またちょこんと彼の膝に座り直した。
彼はジャンプを最後まで読みきると、それを置いて、そのまま私を抱きしめた。
「気持ちいい…」
「私は抱き枕ですか」
「そ。オレ専用の抱き枕」
抱かれる側としても、悪い気はしない。
温かくて、安心する。
彼はこれを、会うたびにやってくる。
二人の恒例行事のようなものだ。
だから私が万事屋に来るたびに、彼はいつもこう言うんだ。
おいで
end
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