銀魂 連載


□白い影
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それは、ある攘夷浪士を追っていた時だった。

俺は、不覚にもその浪士を見失い、すっかり闇に包まれた静かな路地を懸命に走り回っていた。

「クソっどこいきやがった!」

悔しさに浸っている暇はないのだが、さすがに身体の限界が来て、少しの間足を止めて呟いた。

息を整えながら、次の策を練る。

目の前には、無残な姿になった廃墟ビルが、所々、鉄骨を露にして立っていた。

「ここか…」

おそらくここへ逃げ込んだと思い、突入しようとした時だった。

廃墟の中から、叫びに近い短い呻き声が聞こえた。

俺ははっとなって、その廃墟の中へと駆け込んだ。

「誰かいるのか!返事しろ!」

人気のない廃墟の中で、俺は叫んだ。

しかし返って来る返事はなく…

真っ暗なその中は埃や砂で溢れ、ずいぶんと空気が悪かった。

足場も、置きっぱなしの家具や瓦礫が散乱していて、走るのは危険だったが、
俺は時折咳き込みながら、多数の障害物を越えて、声の主を探した。

しばらく移動すると、広い部屋に出た。

ガラスのない窓から差し込む月明かりに、照らされている人物があった。

しかしその人物は、横たわっている。

「まさか…」

俺はそっとその人物に近づいた。

案の定、そこにいたのは、先ほどまで追っていた攘夷浪士だった。

腹から血を滴らせている。

「クソっ…誰が…」

俺は悔しさを滲ませた。

死人に口無し。

逃げられても困るが、死なれてはもっと困る。

刹那、俺は殺気を感じて刀の柄に手をやった。

「誰だ!」

俺は五感全てに神経を張り巡らせた。

しんとした沈黙が続く。

ガサッ…

「!!」

背後から足を擦るような音がした。

こんな時間に、こんな場所にいる者が、まともな奴なはずがない。

斬りかかろうかと思い俺は振り返った。

「そんな睨みつけないでください」

その時、俺の目に入った人物が、小さな声でそう言った。

声からして、女だ。

(女…?何者だ…?)

彼女は白い外套に身を包み、深く被ったフードからは、整った鼻筋と唇だけが見えた。

「後処理はあなたに任せます」

「てめぇ、誰だ」

俺は刀を抜いて、相手に向けた。

おそらく、この女が浪士を殺したのだろう。

「真選組副長…土方十四郎さん…」

「っ!?」

女は薄く笑って、俺を見据えた。

フードから覗く女の顔は、ずいぶん若く見えた。
      

「憂さ晴らしは、また…」

そして俺が取り押さえる前に、女は白い外套を翻して消えた。

そこには誰もいなかったかのように、女の形跡は何一つない。

月は、ただ白く、俺を照らしていた。






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