カカシ 短編


□ロスト・メモリー
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目を開けたとき、そこに空はなかった。

ベッドの上で仰向けになって、見えるのは真っ白な天井と蛍光灯。

頭には何かがきつく巻き付けられている。

薬のようなつんとした匂いが鼻をくすぐった。

ここが病院であることを察する。

そして、ふと思う。

私は、なぜ病院にいるのだろう、と。

「ルミさん…!!綱手さま!ルミさんが!」

するとどこからかそう叫ぶ声がして、そちらを見た。

桜色の髪をした一人の少女が、そこにいた。

彼女は血相を変えて、私のもとへと駆け寄ってきた。

「良かった…本当に良かった。大丈夫ですか?」

「…はい。あの、私はどうして病院に…」

涙ぐむ彼女に、私は、素直に思ったことを尋ねた。

「…あなたは…どちら様でしょうか?」

「!!」

少女はひどく驚いた顔をして、一瞬何も言わなかった。

そして恐る恐る口を開いた。

「ルミさん…私の名前、分かりますよね?」

言われて私はじっと少女の顔見つめた。

けれど、どれだけ彼女を眺めても、何も感じなかった。

「ごめんなさい…私、あなたのことは、何も分からないみたい…」

「そんなっ!?ルミさん、しっかりしてください!!」

「どうした!サクラ!」

私の身体を揺らして、彼女は泣くのも忘れて叫んだ。

そこへ、二人の女性が駆け寄ってきた。

金髪の綺麗な女性は、私に向かって言う。

「ルミ、大丈夫か?あたしのことが分かるか?」

聞かれて、私は首を横に振った。

「すみません、あなたのことも、分かりません…」

言うと、彼女は小さく舌打ちをし自分の頭を手で押さえた。

「記憶喪失か…」

「そんな、ルミさんが…」

「頭を打った衝撃ですね…」

金髪の女性の呟きに、少女ともう一人の黒髪ショートの女性が、顔をひきつらせた。

何が起きたかは分からないが、自分が何か重大なことをしでかしたというのを、彼女たちの様子を見て察した。

それが、良いことではないのも。




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