カカシ 短編
□恋愛対象
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「お久しぶりです、カカシ先輩!」
柔らかな笑みを浮かべて駆け寄って来た彼女は、この五年でずいぶんと大人らしくなった。
彼女がまだ“少女”だった頃は、可愛い後輩として俺も妹のように面倒を見ていたが、今では『可愛い』の意味合いが違う気がする。
今日の今日まで三年間、彼女は長期任務で里を出ていた。
彼女が無事に里へ還って来たことに俺は安心した反面、彼女の変わり様に驚き、そして見惚れた。
「先輩?どうしたんですか?」
俺の顔を覗く彼女の仕草にドキリと胸が高鳴る。
嗚呼、こんな技まで身に付けたのか。なんて、勝手に思った。
「いや、なんでもない」
「嘘。絶対何か考えてたでしょう」
「んー…まあ、ね…」
「フフ、私、少しは大人っぽくなりましたか?」
そう言って腰まで伸びた長い髪を指ですくいながら、悪戯っぽく笑う。
容姿もそうだが、声も態度も少し落ち着いたような気がした。
「そうだな。大分変わった」
「実は惚れました?」
「うん、惚れた」
「フフ、嘘ばっかり」
「嘘じゃないよ」
そう言ったが、彼女は可笑しいと笑っているだけだ。
本当に、嘘じゃないんだけどなあ。
それとも、気づかないフリをしているのだろうか。
少しだけ虚しく思った俺自身を自嘲したい。
「本当に嘘じゃないんですか?」
「え?何が?」
「もう、わかってるくせに」
不貞腐れる彼女の頬が微かに赤らんでいるように見えるのは、俺が自惚れなだけなんだろうか。
そうでないと信じたい。そう思っていたら、彼女がそっぽを向いて小さく言った。
「大人になった私なら、女として見てくれますか?」
彼女にそう言われて気がついた。
本当は五年前に出会った時から、君を女として見てたって。
恋愛対象
「それは、お前は俺を男として見てるってこと?」
「そうだと言ったらどうします?」
「何言ってんの。そうなんでしょ?」
そう言ったら黙った彼女。
自惚れにはなりたくないから、俺は勝手にそのだんまりを肯定と取った。
「ーー好きだ」
早く確信したくて先に宣告した俺は、大人な君に完全にのせられたみたいだ。
「ずるい。私、大人になるまでその言葉我慢してたのに」
不満げにそう言う彼女だが、きっとそれはお互い様。
end
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