銀魂 短編


□愛してると言いやがれ
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「いつになったら諦める?」

「何を?」

「お前はいつまで俺をフリ続けるのかって聞いてんの」

「ん〜たぶん、永遠に?かな」

「…マジか」

「マジだ」

いつもの帰り道。ホームで電車を待ちながら交わされる会話は、はたから聞けば不思議な内容だろう。

俺は決まって、毎日同じ人物と一緒に登下校をしていた。

相手は同じ高校の同級生。

一緒に、というよりは、俺が勝手についていってるようなものだ。

朝も、帰りも、彼女がいつも乗る電車と同じ電車、車両に乗る。

ほぼストーカー状態だが、実際仲は良いので普通に他愛もない話をしながら登下校をするのだ。

なぜ毎日一緒に登下校をするかというと、理由は簡単で、俺が彼女に惚れているからの一つに限る。

気も合うし、二人で出かけることもあった。

自惚れというかもしれないが、脈はあると確信していた。

だが、俺の恋は報われなかったのだ。

「なァ、咲夜。明日部活ねーんだろィ。ちょっと買い物付き合ってくんねェ?」

「無理。明日は予定入ってるからさ」

「またアイツか…?」

「そ、アイツ。久々にデートなの」

携帯をいじりながら、嬉しそうに笑う彼女。

この笑顔に惚れつつも、この笑顔が憎らしいと思った。

何度、歯を噛み締めたことか。

何度、拳を握り締めたことか。

もっと早く想いを伝えていれば良かったと、何度、後悔したことか。

後悔先に立たず、とはまさにこのこと。

自然に想いが伝わる、なんて甘い考えをしていた自分がバカだった。

気づいたら、どこの誰とも知らない、他校の男と彼女は付き合っていた。

その男と付き合って、もうすぐ2ヶ月が経とうとしている。

そしてそんな彼女に付きまとい、しつこく想いを伝え続けてこちらも2ヶ月が経つ頃だ。

「――って、言いたいんだけど…」

「は?」

しばらくして続けられた言葉にふと、彼女の顔を見ると、何故だか浮かない表情をしている。

「フラれた」

苦笑いを浮かべ、彼女はサラリとそう言った。

思わぬ宣告に、俺は言葉を失う。

唖然としていた俺を見て、彼女は可笑しい、と言わんばかりに小さく笑った。

「ははっ、何その顔!」

「わ、笑い事じゃねェだろィ!お前っ、それ本当か?」

「焦りすぎ。本当だよ」

「いつ!?」

「今」

「は?今!?」

「そ。今」

俺に見せてきた携帯のディスプレイには、彼氏からの別れのメール。

『ごめん、別れてくれない?』

たった一文の素っ気ない文面に、俺は怒りを覚えた。

「お前…なんて返した?」

「え?『そっか、じゃあそうしよう』って…」

「それだけ?明日デートとか言ってたのに何で急に…喧嘩でもしたのか?」

「ううん、別に。他に好きな子でも出来たんじゃない?なんか、女友達いっぱいいるみたいだし」

「んだよ、それ…浮気してたってのか。ふざけてやがる…」

「浮気かどうかは知らないけどさぁ、私も同じじゃん?」

「何が…」

「私だってさ、総悟がいるもん。女友達がどうとか、責められないよ」

取り乱す俺とは裏腹に、まるで他人事のように淡々と語る彼女がわからなかった。

つい先日まで、仲良くやっていた二人が、喧嘩もしていないのにこんな早くに別れることになるなんて…

俺のせい、だろう。

俺が、彼女に彼氏がいるとわかっていたのにも関わらず、しつこく付きまとっていたから。

「総悟は悪くないよ。悪いのは私。たいして人も知らずにその場のノリで付き合ったんだから……基本いい人だったけど、嫉妬深いくせに自分は女ちらつかせるし、結局はヤることしか頭にないんだよね。正直合うの辛かったからさ、ちょうど良かったの」

しかし、焦る俺とは裏腹に、まるで他人事のように淡々と語る彼女の表情はどこかすっきりしているように見えた。

俺を気遣って気丈に振る舞っているようではなさそうだった。

「明日暇になっちゃった…ねぇ、総悟」

「何…?」

「こういう女だよ。総悟がずっと好きだと思ってきた私は、こんなにいい加減な女なんだよ。それでもいいなら、明日、買い物にでも何でも付き合うけど?」

自らを嘲笑うようにフッと笑い「幻滅したよね。ごめん」などと言っては、すごく辛そうな表情(かお)をしていた。

彼女の言葉を否定しようにも俺は何も応えられず、ただ長い沈黙が流れるばかりだった。

電車到着のホームアナウンスが流れ始めると同時に、俺は沈黙に耐えられずおもむろに口を開いた。

「明日、9時に駅集合な」

「え?」

「それまでに、俺は言葉を考えておく」

「…何で?今、言ってよ。いつもみたいに、『好きだ』って…『俺と付き合え』って…」

言いながら、俺の制服の袖を掴む細い指。

到着した電車の扉は開いたが、俺達は乗ることはなく、ただホームにたたずんだままその電車が遠くに消えて行くのを見ているしかなかった。

何故だか、俺達の体が、時が、止まってしまって動かない。

震える手を力いっぱい握り締め、彼女の指に自分の片方の手を添えた。

「言っても、お前は永遠にNOと言い続けるんだろィ?なら、言う必要がねェ」

「……もし、NO以外の答えを用意してると言ったら?」

「……例えば?」

「例えば……『私も本当は好きだった』って……」

「信用ならねェ……そんなの」

「好きだよ。本当に……ずっと好きだった」

「なら、なんで……」

「ずっと待ってたんだよ。総悟に告白されるのを……私は脈アリだと思ってたから、きっとそのうち……って。でもいつまで経っても進展しなくて、もう無理だって思った時、知り合いの男に告白されて、付き合ったの。それで満足するはずだったのに、忘れるはずだったのに…!今さらになってアンタが毎日のように告白してきて…もう、ワケわかんない!」

頭をかきむしって嘆く咲夜。

こんなにも取り乱した彼女を、俺は見たことがなかった。

いや、気づかなかっただけか…

咲夜の言葉を聞いて、俺はとことん意気地のない人間だと、自分で自分が情けなかった。

「ごめん…咲夜…」

「…ううん。私こそごめん…総悟のせいじゃないのに…」

そう言って、涙をこらえて笑う。

いつだって、そうやって笑って誤魔化してばかり。

こんな時、俺はどうすればいい?

「咲夜…」

「何?」

「お前がいい加減な女だとしたら…俺はもっといい加減どころか、最低な男だと思うぜィ」

「…ふふ、だろうね」

「オイ…もうちょっとオブラートに包めないのか」

「今さら、お互いそんな関係だっけ?」

「いや…」

「要するに、何が言いたいの?」

「要するに…」

次の電車がホームに到着する。

今度は乗り過ごさなかった。俺が、無理矢理彼女の手を引いたから。

「最低な女にゃ最低な男で十分だってことでィ」

「…最低の告白…」

「悪かったねィ」

「ふふ」

もういいじゃないか、いい加減素直になってくれ。

俺の手を握ったまま、彼女は笑っていた。

「じゃあ、そういうことにしてあげる。でも、やっぱり気持ちは聞いておきたいな」

「俺はいつも言ってる…だからお前から――」




愛してると言いやがれ




「こんな電車の中じゃ恥ずかしいからさ……総悟の家でなら、言ってあげる」

「…マジか」

「マジだ」

やっと、彼女の笑顔を独り占めできる。

いつも降りる駅に着いても、彼女は俺の手を握ったまま隣に立っていた。

「なァ、明日どこ行こうか――」


end

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