銀魂 短編


□痕は印*
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それは、一ヶ月前のこと。

いつものように情事をしている最中、ふと思ったのだ。

(そういえば…私、トシの身体にキスマークつけたことないな…)

いつも鎖骨の下あたりにつけられるキスマーク。

くっきりと残る真っ赤な痕はいつも服を着てギリギリ隠れる位置だし、風呂に入るときいつも恥ずかしくなる。

だが、それよりも嬉しいと思った。

自分は、彼のものなんだ。

そう実感することができる、彼の印だった。

だから私も彼にそんな印をつけたい、と――

さりげなく彼の首に手をまわし、右肩のあたりにカプリと噛みつき吸ってみる。

が――

(あれ?)

遠慮がちに吸ったせいか赤くなったはずの肌はすぐに元の色を取り戻していった。

少しだけ皮の捲れた痕が残っただけだった。

(は…恥ずかしー…)

あの時の屈辱を忘れられず、私はそれからしばらくトシと顔を合わせない間に、自身の身体で練習していたのだ。







「キスマークをつける練習?」

「そうよ……何?黙ってないで、馬鹿にするなら馬鹿にしなさいよ!」

「いや…オメーが馬鹿なのは確かだけどよ…」

「え、そこ認めるの?励ますとこでしょ!?」

イラッとして私は声を荒げる。

トシは片手で顔を隠すように覆っているところからして、きっと笑っているのだろう。

すると彼は、ため息混じりに言った。

「お前…まぎらわしいことしてんじゃねーよ」

「トシが勝手に勘違いしたんでしょうが。もう知らない。キスマークひとつつけられないような女、トシだって抱きたくな――」

「悪かった…」

ふてくされる私の言葉を遮るように言って、彼は私を再びベッドに押し倒した。

見上げた先にあった彼の顔には、後悔の色が見える。

そして少しだけ頬を染め、

「お前…可愛いことしてんじゃねーよ…」

そう低く呟いて、彼は私にそっと口づけた。

「んぅ……トシ、浮気した私を抱くの?」

「うっ……だから、悪かったって。許してくれよ」

「んー、どうしようかなァ…じゃあ――」

私はニヤリと笑って彼の上にまたがった。

いきなりの形勢逆転に、彼は少なからず驚いている。

「私のキスマーク、認めてくれたら許してあげるよ」

「は…?ちょ、咲夜…っ!」

わざと服を着ても隠せないような場所めがけ、私は思いきりトシの身体に噛みついた。

噛みついたところをチュウ、と吸って、そして優しく舐めると、彼は甘い吐息を漏らす。

ゆっくりと顔を放して、見えた先にある真っ赤な痕に、私は満足した。

「どう?これで浮気、できないでしょ」

「阿呆か…浮気なんて、ハナからしねーよ」

「でも、これでトシは私のものだって印がついちゃったね」

そう言った瞬間に、今私がしたのと同じようにしてトシが私の首元に噛みついてきた。

「あっ……ぁ……」

チクリと刺されるような痛みを舐めとられ、身体がピクリと反応する。

鎖骨のあたりまでいやらしくツゥーっと舌を滑らせ、彼は顔を上げた。

「これで、お前も同じだろう?」

何故か勝ち誇ったようにそう言うものだから、おかしくなって、私は笑った。




痕は印




「――お揃い、だね」

二人の身体に咲いた、小さな赤い花。



end

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