銀魂 短編


□ツキノヒカリ*
1ページ/2ページ


薄暗くて、埃っぽくて、人間のにおいがツンと鼻をかすめる。

むせかえるような、血のにおい。

身体の震えは、どうしても独りじゃ止められなかった。

手首を締め付けている縄を、何度外そうともがいたことか。

今では少し動かすだけで皮膚が擦り切れ激痛が走る。

ああ、私はついに死ぬのか――

少し前まで散々にいたぶられた身体はとうに限界を越えていた。

助けを求めようとも、叫び、喘ぎ続けたせいで喉が枯れ声が出ない。

自分自身の“死”を確信したとたん、霞んだ視界に身体の力を抜いた。

「――咲夜っ!」

ゆらりと傾いた私の身体を受け止めたのは、冷たいコンクリートではなく、黒い腕の中だった。

ふわりと香った煙草のにおいが、生臭い血のにおいをかき消した。

「しっかりしろ!オイ!咲夜!」

聞こえる。

愛しい人の――土方さんの震えた声が。

閉じていた瞼をゆっくり開けた。

「っ!!オイ!大丈夫か!」

私を抱え、必死に声をかける土方さん。

初めて見る、彼の余裕のない表情に、少し可笑しくなった。

「これが…大丈夫に見えますか…?」

無惨な自分のなりを嘲笑うように言うと、彼は至極申し訳なさそうな顔をした。

「悪ィ…」と小さく言って、今にも泣きそうな顔でこちらを見つめてくる。

土方さんにとって、私は大切な存在だったんだ、と潤んだ蒼い目を見て思った。

ぎゅう、と私を抱きしめる彼が、愛しくて、愛しくて、仕方がなかった。

こらえようとも思わず大量の涙を流して、それを彼の胸に押し付ける。

喉が痛いのも構わず、声を出した。

少しでも大きく、彼に、届くように。

「土方さん…土方さん…」

「咲夜…」

「土方さん!土方さんっ!…ひじか…たさっ…んっ…」

何度も何度も、しつこいくらいに名前を呼んだ。

“土方さん”

大好きなあなたが、私を助けに来てくれたことが嬉しい。

抱きしめてくれて嬉しい。

私の言葉を遮るようにあてがわれた柔らかい唇は驚くほどに温かくて、口を割って入ってきた舌はゆっくりと…次第に激しく口内をまさぐった。

「ん……んぁっ…はぁっ…んっ……」

苦い――けれど甘い口づけに酔いしれる。

もっと…もっとあなたが欲しい。

欲望が抑えきれなくて、私は無意識にも彼を誘惑するように熱っぽい視線を向けてしまった。


.

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ