銀魂 短編
□世界の終わり
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燃えるように暑い夏はとうに過ぎたと言うのに、この身体の火照りはどこから沸き上がったものなのか。
考え、行き着いた先に浮かんだ男の顔を、首を横に振ってふきとばす。
絶対に、おかしい――
居間のソファに三角座りをする少女、神楽はそう思った。
誰がおかしいか――自分だ。
神楽以外誰もいない万事屋に、インターフォンが鳴り響いた。
一瞬、出ようかと思った。が、玄関先から聞こえる声に、神楽は浮かした腰をソファに戻した。
ソファの上で静かに縮こまり、居留守をきめこむ。
胸を打つ鼓動がやけに大きく聞こえた。
「何で出ねェんだよ」
「うおっ!」
背後から振ってきた低い声に、ビクッと肩を震わせ腑抜けた声を出してしまった。
そこにある真っ黒い制服は、今では見慣れたものになった。
「不法侵入してんじゃねーヨ。警察に突き出すアルヨ」
「俺が警察でィ」
「私はお前を警察だなんて認めてないアル。とりあえず、帰れヨ」
ギロリと睨むように一瞥し、神楽は冷たい口調で言い放つ。
彼――沖田総悟は不満げに神楽を見下ろした。
真選組の隊服を着ているからにして、どうせまた仕事をサボっているのだろう。
こんな男によく役人が務まるものだ、と神楽はつくづく思っていた。
(なんで、こんな時にコイツに会うんだヨ…)
そして最近自分がおかしい、と感じる原因は、おそらくこの男にあるのだ。
なぜだか分からないが、顔を見ると、胸がしめつけられるような、切ない気分になる。
今まで散々喧嘩をしてきて、互いに酷いことばかり言い合ってきたというのに、今になってなぜか彼の一言に、心がズキリと痛むことがあった。
「用がないならさっさと帰るアル。お前の顔なんてみたくないネ」
「相変わらず可愛くねー女だな」
「っ!余計なお世話ネ!もう帰れヨ!サドのバカ!いくじなし!」
「てめーはハイジか。ていうか今バカっつったなこのクソアマ」
「フン!私みたいなクソアマに付き合ってるヒマがあったら仕事しろヨ。
街を歩いてればお目当ての可愛い女の子なんていくらでもいるアル。せいぜいナンパしてフラれるがいいネ!」
早口でそう言い、神楽は勢いよく立ち上がった。
――超逃げたい!
神楽はそう思うが、それは叶わなかった。
「待てよ」
「ぐふぅっ!!」
沖田に足を引っ掛けられ、神楽は勢いよく顔面から床に突っ込んだ。
「何するアルっ――!!」
床に突っ伏していた神楽が仰向けになって見上げた先には、沖田の顔があった。
彼は彼女の上に四つん這いに覆い被さり、今にも触れそうな距離にある彼女の顔を見下している。
あまりの近さに、神楽は殴りかかることも忘れ言葉を失った。
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