銀魂 短編


□青春絵図
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『なぁ…キスしていいか?』


夕日が差し込む放課後の教室。

大好きな彼に、いきなりそんなことを言われて――




バサッ!




「…こんな漫画のドコが面白いアルか」

机に投げ出された一冊の少女漫画を白々と見つめ、神楽は一人呟く。

教室には神楽の一人だけで、つまらなそうに机に突っ伏した。

実写映画化もするほど今流行っているこの少女漫画を友達にしつこく薦められ、渋々借りて読んでいたのだが、元々少女漫画なるものに興味がない神楽は最後のページに行きつくこともなく飽きてしまった。

両想いなのに全然進展しないだらだらしたラブストーリーのどこが面白いのか、全く、理解し難い。

「フン、だいたい展開がベタ過ぎヨ。古くさいアル」

――放課後の教室に男と二人きりなんて。

だって私、今放課後の教室にいるけど、一人だし…

だいたい、好きな男なんていないアル――

ガララッ

その時、いきなり開いた教室の扉に、神楽は瞬時に反応した。

「姐御っ!――て…え?」

「…お前、一人で何してんでィ」

現れたのは、待ちわびていた人ではなく神楽が心底嫌っている男――クラスメイトの沖田総悟だった。

一瞬明るくなった表情が崩れる。

ハァ、と大袈裟にため息をつきながら、神楽は肩を落とした。

「お前かヨ。まぎらわしいアル」

「あ?なんだてめーその言い種は」

「私は姐御を待ってたアル!お前なんかお呼びじゃないネ」

「俺ァただ忘れ物取りに来ただけなのに、なんでそんなこと言われなきゃなんねーんでィ。それに…」

沖田は自分の机をあさりながら、そして一冊のノートを取り出して言った。

「志村妙なら帰ったぜィ」

「っ!…んなわけないダロ!姐御が部活終わったら、今日は一緒に晩御飯食べに行くって約束してたネ!教室に迎えに来てくれるって言ってたアル!でたらめ言うんじゃねーヨ!」

「さっき部活が終わって校門出てったの見たんだよ。メールでも入ってんじゃねーの?」

「そんなことは――」

言いながら、神楽は携帯を開く。受信ボックスに“姐御”の文字。


〔神楽ちゃん、ごめんなさい!
新ちゃんが急に体調悪くしちゃったみたいで…
心配だから、また今度にしてもらえる?
待たせちゃ悪いから、先に帰ってて(>_<;)
本当にごめんなさい〕


という妙からのメールが30分ほど前に受信されていた。

「…オイ、やっぱメール着てたんじゃねーの?」

「……帰るアル」

神楽はすっと立ち上がり、鞄を肩にかけた。

「待てよ」

「なっ!何アルか!放せヨ!」

だが立ち去ろうとする神楽の腕を、沖田が捕まえる。

神楽はもがくが、沖田は放す様子はない。

「あれだけ俺に言っておいて、しらっと帰るつもりかィ?とりあえず、謝れ」

「はぁ?ふざけんなヨ、誰が謝るアルカ!」

「んじゃあ、俺の言うこと聞け」

「嫌アル!もう帰るネ!」

沖田の手を振り払って、神楽はずかずかと教室の出入り口に向かっていく。

扉に手をかけたのだが、扉が動かない。

背後から伸びた手が、圧をかけていたのだ。

「……いい加減にするアル。お前、そんなに私に構ってほしいアルカ?」

フン、と鼻で笑いながら振り返ると、予想以上に近くにあった沖田の顔。

一瞬びくっとした神楽に、沖田はニヤリと口角を上げて呟いた。

「ああ…そうだな…」

「…え゛っ…」

「なァ、俺達いつまでこんな風にいがみ合ってりゃ気が済むんだ?俺ァ、もうそろそろ飽きてきたぜィ」

「な…何わけのわからないこと言ってるアルカ…なんかキモイアル…」

引きつった笑みを浮かべて言う神楽に対し、沖田の目はなぜか真剣だ。

じっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな紅に、神楽は目を逸らした。

そして唐突に、沖田は言った。

「……なぁ……キスしていいか?」

「!!??」

すっと伸びてきた沖田の手のひらが神楽の頬を包む。

驚きのあまり硬直している神楽に構わず、沖田は半ば強引に顔を近づけた。


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