銀魂 短編


□カーテンのむこう
1ページ/1ページ


「だめです…」

近づく彼の唇を、人差し指で優しく押し返した。

私の人生に大きな転機が訪れてから、ちょうど一週間が経った頃だった。

「こんなところで、だめですよ。先生…」

眼鏡の奥で私を見つめる目が、すうっと細められる。

坂田銀八先生。

私の担任の先生だ。

このクラスになって、先生に出会った時から、ずっと好きだった。

初めはただの憧れだったのかもしれないけれど、それはすぐに恋心へと変わっていった。

叶うはずのない恋。

こんなに辛いものがあるのか、と私は何度も悩んだ。

だが、何ヵ月経っても、夏休みが明けても、先生への気持ちが変わることはなかった。

そして事は、先生に出会って半年が経った時だ。


学期末の二者懇談。

そこで言われた言葉に驚きを隠すことなんてできなかった。

『俺、咲夜のこと好きだよ。もちろん、恋愛的な意味で』

にへらと笑って言う先生が信じられなかった。

私の想いに気付いて、弄んでいるだけなんじゃないか、と。

しかし彼は、内緒を突き通せる自信があるなら付き合わないか、と至極真剣な眼差しを向けるので、私は力無くコクリと頷いてしまったのだ。

そして今日は、それから一週間が経った放課後。

クラスメイトが全員出払った教室には、私と銀八先生の二人だけ。

今日はたまたま、日直だったから、私だけが教室に残っていたのだ。

そんなところに、先生がやって来た。

もちろん、私が残っているのを知っていてだ。

今日は先生と一緒にいられる時間が増える、と私は嬉しかった。

けれど付き合い始めてまだ一週間。

私にとっては初恋だから、一週間じゃあ余裕を作るには時間が少なすぎる。

なんだか気恥ずかしくて、目を合わせるのも至難の技だ。

「咲夜…」

普段よりも低く、甘い声。

それだけでも恥ずかしいのに、先生はゆっくりと顔を近づけてきて、次に何をされるか解ってしまった私は反射的に身を退いた。

すると先生は教室の入り口を一瞥し、フッと笑う。

「わっ!」

私の手をぐい、と引いて、先生は私と一緒に夕日を遮っていたカーテンのむこう側に入りんだ。

私は窓に背中を押しつけられる。

先生が、私の顔の両側に手を置いて、身動きが取れなかったからだ。

「先生…」

「大丈夫だって」

そう言うと、先生は短くて優しいキスをした。

驚きと、恥ずかしさと、嬉しさと…

いろいろな気持ちが交差して、一瞬頭が真っ白になってしまった。

「悪ィ、我慢できなかった」

「いえ……」

「ここなら、イチャついてもいいよな?」

先生は、窓の外にある夕陽を眺め、ニヤリと笑って私を抱きしめた。

私は、熱くなった顔を隠すように彼の胸に顔を埋める。

銀八先生の香りが、こんなにも近く感じられる――

幸せだった。

「さ、暗くなる前に帰れよ」

「はい…」

すっと身体を放されて、私は少し残念だった。

もう少し、抱き締め合っていたかったという欲があった。

でも、これは仕方のないことなのだ。

先生には、我が儘ばかり言って迷惑をかけたくない。

「先生」

「んー?」

「また、明日」

教室の戸を開け、振り返って言うと、先生は愛想のよい笑みを浮かべて返してくれる。

「おう、また明日な」

その笑顔が、愛しくてたまらなかった。

先生――

卒業したら、私の我が儘、たくさんきいてくださいね。

カーテンのむこうだけじゃなく、どこでだって、先生と戯れていたいもの。




カーテンのむこう




end

目次に戻る


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ