銀魂 連載


□迷子とおまわりさん
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屯所に戻ろうとしていた俺だったが、やはり竜崎のことが気になって、足を止めた。

いくら冷めた人間とはいえ何も言わずに姿を消すのはおかしい。

何かあったんじゃないか、と不安にかられ、気づけば街中駆け回って彼女の姿を探していた。

幸い、彼女が分かりやすい赤毛をしていたことから、聞き込みを行ってすぐ手がかりが得られ、手当たり次第にまた走り回った。

そしてすっかり日が沈んだ頃、とある公園で見覚えのある人影を見つけた。

先程までサラサラと風邪になびいていた赤い髪は、湿って肌に張り付いている。

頭から水を被りでもしたのか、全身びっしょりと濡れていて、よく見れば、足首に怪我まで負っていた。

痛々しく滲む真っ赤な血に、何があったのかいぶかったが、妙に清々しいその表情からは何も伺え知れなかった。

「心配してくれたんですか」

当たり前だろうが。

表面では憎まれ口を叩いてしまったが、こんな状態の人間を見て、心配しない人などいないはずだ。

風邪を引いてはいけない、と羽織っていた上着を乱暴に被せると、彼女はそのにおいを嗅いで顔をしかめた。

だが文句を言いつつも「温かい」と呟く彼女はまるでいつもの異様なオーラがなくて、ただのか弱い女のようで調子が狂いそうになった。

いつもはあんなに大口を叩いているのに。

肩に乗るよう彼女に促した時にはさすがに拒まれるかと思ったが、案外すんなり身を委ねてきた。

驚いたが、安心した。

こんな足で歩かれて、今後に響いては困る。

「またデートしましょうね、土方さん」

顔を近づけ珍しく抑揚のある口調でそう言われたとき、彼女にも“可愛げ”というものがあるのだと少しだけ思った。

嫌味な演技と分かっていながらも、それでも少しずつ彼女が心を開いてくれているような気がした。

とはいえ、まだ竜崎和葉という女は図り知れない。

たまにはこうして、プライベートで絡んで、彼女のことを知る機会にしてもいいかもしれない。

休日なのに疲れが取れるかは分からないが…。

いつの間にか近い存在になっていた彼女をもっと知りたいと思った。

アレ?

俺、なんでそんなにアイツのことが知りたいんだろう?

クールなくせに子供みたいな悪ふざけばかりして、そして気の毒なことによく面倒事に巻き込まれる。

今日も何かに巻き込まれて怪我を負ったのだろう。

だが基本、巻き込まれたというか、自分から巻き込まれにいっているように見えるが…

真選組のクールビューティーと称される彼女はその淡々とした振る舞いと口調からは想像できないほど女らしい面もある。

甘党で、子猫やアイドルなど可愛いものが好きだったり、ゴキブリを怖がったり…

黙ってニコニコしていれば仕事も出来る才色兼備であるのに、彼女は少し“残念な美女”だった。

でも、“ただの美女”であったら、真選組(ここ)にいることはできないのだと思う。

アレ?

俺、なんか結構アイツのこともう知ってることね?

とか考えていると、急に背に重みがかかった。

「オイ、ちゃんと掴まっ…」

顔だけ振り向くと、彼女は疲れきった様子で目を閉じ、静かに寝息をたてていた。

俺の首に巻きつく彼女の腕は緩まって、足は重力に任せてだらんとしている。

冷たく濡れた赤髪が首にかかって、くすぐったかった。

俺は少し重くなった彼女の体を背に乗せ、彼女を起こさぬよう、ゆっくり帰り道を歩いた。


つづく





だからなんだって話ですよね。すみません。
次回からは慰安旅行篇スタート。沖田、本気になります。
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