銀魂 連載


□迷子とおまわりさん
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「こりゃ…結構深いな…」

ドスッと音を立て、倒れ込むようにして公園のベンチに腰かけた。

先程負った切り傷は思いの外深く、歩こうと足を踏み出せば激痛が体に走った。

なんとか足を引きずりながら歩いていたが、なかなか前に進めずすっかり日が暮れてしまった。

誰もいない公園には鈴虫やカエルの鳴き声だけが響いていて、自分を照らす蛍光灯の光はなんだか無性に虚しさをかきたたせる。

「はぁ…とんだ休日だ…」

珍しく夜空なんかを眺めてみては呟く。

休日だというのになんだか余計に疲れが溜まった気がする。おまけに怪我まで。

誰かが迎えに来てくれる――わけないか。

先程川に飛び込んでしまったせいで携帯は水没し、使い物にならない。

ここがどこなのかよく分からないのに。

「…さて、帰りますか」

足は痛むが連絡が取れないのであれば仕方ない、と立ち上がろうとした時、前に気配を感じた。

下を見ていた私は、その差し出されているのであろう手を、じっと見、顔をあげながらその人物に言う。

「何やってるんですか、こんなところで」

「そりゃこっちの台詞だよ」

なぜか息を切らした土方さんが、そこにいた。

ぶっきらぼうに差し出された彼の手を遠慮がちに掴んで、右足首を庇いながら立ち上がった。

「てめぇ、いきなりいなくなりやがって。携帯はつながらねぇし、どこで何してやがった」

「心配してくれたんですか」

「あぁ?自意識過剰もいいとこだな。そんなんじゃねぇよ」

「じゃあ、なんでここにいるんです?」

問い詰めれば、彼は私に目を合わさず、小さく言った。

「警察なんだから、迷子を探すのは当然だろ」

そうして煙草を取りだし、ライターで火をつけるなり美味しそうに吸い始めた。

空に消える紫煙を一瞥し、彼が言ったことに対し私が笑えば、彼は「何がおかしい」と不満げに睨んできた。

だが、おかしい。

だって、私と同じことを言うんだもの。

「つーかなんでそんな濡れてんだよ。風邪引くぞ」

彼は言うなり自分の羽織を脱ぎ捨てるようにして私に投げた。

ふわりと香る、土方さんの匂い。

「…煙草くさい」

「文句言うんじゃねえ」

「でも、温かい」

私には大きいその羽織を肩に掛けると、ずいぶんと温かくて、つい顔までそれにうずめる。

私は足首を庇いながらゆっくり歩き出したが、その前に、彼がしゃがみ込む。

「…邪魔なんですけど。嫌がらせですか?」

「んだよてめぇ、人がせっかく優しくしてやってんのに」

「キモいです。土方さんの優しさなんて」

「あ゛ぁ?」

要するに背に乗れ、と、そういうことだろうが、素直に乗るわけにはいかずいつものように突っかかる。

が、彼は依然として私の前で背を向けしゃがんでいた。

「そんなノロノロ歩かれたらこっちが苛々すんだよ。いいから黙ってさっさと乗れ」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

そう言って、彼の背に抱きつくようにして体を乗せ、首に手を回した。

彼は「しっかり掴まっとけよ」と言うと、軽々と私の体を持ち上げ、歩き始めた。

彼の大きな背からはほどよく温かい体温が伝わり、濡れた体に染み渡たる。

綺麗な長めの黒髪が揺れ、顔にかかってくすぐったい。

「今日は散々な日でしたよ…」

「そうか、それは気の毒だったな」

絶対気の毒には思っていない口調で彼は言う。

その反応が気に入らなくて、おちょくろうと彼の顔に自分の顔を近づけた。

「またデートしましょうね、土方さん」

そう言えば、「何がデートだ」と呆れたように彼は言うのだが、その耳が少し赤くなっていたことは、その時私には分からなかった。

「次はどこ行きます?また映画でもいいですよ」

「バーカ。当分は仕事だ」

鼻をかすめる煙草の匂いはあまり好かなかったのだが、今では少し、落ち着く匂いに感じた。

これからの休日は、土方さんと遊ぶのもいいかもしれない。

気持ち悪いくらいに優しい土方さんの背にしがみついて、私は静かに目を閉じた。


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