銀魂 連載
□迷子とおまわりさん
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土方さんの背を見ながら、オレンジ色の太陽を背に歩いていた私は、通りかかった骨董屋の店先に、一人うずくまる少年を見つけた。
六歳くらいの小さな少年は、膝を抱え、静かに鼻をすすっていた。
「……どうしたの?」
「ひっ…ううっ…」
「……言わなきゃ分かんないでしょ。言ってみな」
少年の前にかがみ、出来るだけ優しい口調で促すと、しゃくりながら少年は小さく口を開いた。
「サスケが…いなくなっちゃったんだ」
「サスケ?……サスケなら大蛇丸のところに」
「いやナルトじゃなくて…犬…」
「犬?」
少年の手には真新しいリールがあり、本当なら犬の首に巻かれているはずのそれが虚しくほどけている。
「逃げたのね」
「うっ…探した…けど…ひっ…見つから、なかった…」
そう言うと、少年は辛抱しきれなくなったのか大声で泣き叫ぶ。
私は少年を抱き抱え、そして泣き止むよう赤子をあやすようにして言った。
「その犬。探すの手伝うわ」
懐に入れておいた警察手帳を取り出し少年に見せ、「お姉さんは警察だから、大丈夫」と言い聞かせると、少年は弱々しく頷いた。
土方さんも巻き込んでやろう、と辺りを見渡すが姿はない。
先に帰ったのだろうと思い、少し残念な思いに浸りながら、私は少年の犬探しを始めた。
「白くて尻尾の先が茶色いチワワ……」
少年から得た犬の容姿を頭に浮かべ、少年が散歩してきた道を戻りながら、聞き込みを行った。
なかなか目撃証言が得られない、と思っていた頃、とある狭い路地の間に入っていく小綺麗な犬を見たと聞き、言われた場所に向かった。
薄暗い路地を隅々まで見渡し、そこを抜けたところで少年が声をあげた。
「サスケっ!」
少年は繋いでいた私の手を放すと、路地を抜けた先にあった川原へ走り出す。
その方向には、確かに小さくて白いチワワ――サスケがいた。
が、川のすぐそばに座り、水を飲もうと小さな体を乗り出していたサスケは、
いつになく流れの早い水流に巻き込まれ、甲高い鳴き声とともに水の中に沈んだ。
「!」
「サスケっ!」
少年が、水の中でもがくサスケを助け出そうと、川へ走ったのが見えたところで、私の体は無意識に動き始めた。
バシャンッ!
と、水しぶきをあげ私は近くにあった橋から川へ飛び込んだ。
思ったよりも深い川底と早い流れに怯みそうになりながら、少し先で溺れかけているサスケを追い、なんとかその体を捕まえた。
そこからは自分が助かることも考え、サスケを抱えながら必死に浅瀬を目指して泳ぐのだが、水を吸った着物が体に纏わりついて上手く泳げない。
「お姉さん!」
少年の声が聞こえた時、ようやく足のつく場所にたどり着き、川原に上がった。
私の腕の中にいるサスケは少し弱っているようで、少年は心配そうに駆け寄ってきた。
私はサスケを少年にそっと手渡す。
「ごめんね…僕のせいで…僕が、ちゃんと散歩できなかったから…うっ…ひっぐっ…」
少年はサスケを強く抱き締めながら、また声をあげて泣いていた。
「早く家に帰って、温めてあげなさい」
「でも…お姉さん…足が…」
少年は少し怖がるような目をして、私の足首を指差した。
見ると、川に流れるガラスか何かで切り傷を負ったようで、靴下には痛々しく血が滲んでいた。
今になって、痛みが込み上げてくる。
「大丈夫よ。これくらい、たいしたことないから」
「でも…」
「いいから、早く。サスケと一緒にお家に帰りなさい。お母さんも心配してるわよ」
辺りを見ると、日が暮れる寸前で、家まで送って行こうか、と言ったが、少年は「すぐ近くだから平気」と言って遠慮した。
泣きながらも、少年は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「お姉さん、一緒に探してくれてありがとう」
「おまわりさんだもの。迷子を探すのは当然でしょ」
帰った、帰った、と強引に背を向けさせると、少年は一度だけこちらを振り向いて「ありがとう」と手を振るなり、サスケを抱えて走っていった。
少年の後ろ姿が見えなくなるまで、ずっとそれを見つめていた。
その時私はすごく晴れやかな気分で、それは足の痛みを吹き飛ばすほど爽快なものだった。
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