銀魂 連載


□悪魔になった日
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それは、雪が降る、寒い日の事だった。

私は、仕事に出ている彼の帰りを、一人家で待っていた。

大切な…大好きな、兄を。

しかし彼は、いつになっても帰ってはこなかった。

その日も、次の日も、そのまた次の日も…

すると、ある日誰かが我が家の戸を開けた。

『兄さん!』

私はそう声を上げたが、そこにいたのは兄ではなかった。

邪悪な笑みを浮かべた、見ず知らずの男たちが、そこにいた。

兄の、首を持って。

『兄さん…?』

『ああ…兄さんだよ、おまえのな…』

幼いながらにも分かった。

兄は何者かに殺されたのだと。

そして私は思った。

兄を殺したのは、目の前にいる男たちだと。

土間に転がった兄の首を見ることなどできず、私はただやって来た男たちを恐れつつ見上げた。

『兄さんは…帰ってこないの?』

『ああ…帰ってこねぇよ…二度とな』

男たちはニヤリと口角をあげたままだ。

私は、兄を失った悲しみに浸っている余裕はなかった。

恐怖、悲しみ…それよりも、自身に沸き立つどす黒い感情。

その邪悪な笑みに思うのは、“怒り”と“憎しみ”だ。

『さぁ、これからはオレたちが、おまえの兄さんになるんだよ』

『せいぜい、兄さんのために働いてくれよ?』

男たちの卑劣な笑いが途切れるのは、すぐだった。




『あ…兄貴たちが…殺られた…』

後から家へ駆け込んできた男が、身体を震わせて、床に突っ伏す男たちを見下ろした。

私が彼の方に目をやると、怯んだように顔を強ばらせて、その場から逃げて行った。

私は、手に握った木刀を眺めた。

赤黒い血が滴っている。

それは、顔にも、髪にも、着物にも、手足にも。

気付けば、自分もろとも辺りは真っ赤な海だった。

人を殺した時に表れる、なんともいえない空虚感は、ある意味、清々しいような気分で。

“怒り”とか“憎しみ”が消えていく気がした。

私が“悪魔”と呼ばれるようになったのは、その日からだった。



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