銀魂 連載


□マヨより餡子
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「ここの店にはよく来るんですか?」

「まぁ、金が入ったらな。特別メニューで癒されようと思って」

「…特別メニュー?」

銀時の言葉に和葉は首を傾げた。

確かに、先ほど「いつもの」と注文をしていた。

彼が何を好んでいるのか、少しだけ気になる。

すると、まずは土方の料理が差し出された。

「はい、土方スペシャル丼ね」

“土方スペシャル丼”と名付けられたそれは、マヨネーズの山だった。

見ているだけで胸焼けがする。

「好きですね、マヨネーズ…」

「あんなもん犬のエサ…いや、犬のエサ以下だな」

和葉と銀時は白々とした目をして呟いた。

聞こえたのか土方は顔をひきつらせて苛立たしげな目を二人に向けた。

「お前らの腐った味覚じゃ、この味は分からねぇんだよ」

土方は言うと、マヨネーズ丼をかきこんだ。

すると今度は、銀時の料理が差し出された。

「はい、宇治銀時丼」

「う…宇治銀時丼…?」

これもまた、目を奪われるような料理だ。

今度はマヨネーズではなく、一面に小豆が敷き詰められている。

「はい、竜崎さん」

そして次に、和葉の料理が出来上がった。

彼女の料理はいたって普通だ。

卵焼きに、煮物に、焼き魚に、汁物とご飯が一つのお盆に載せられている。

「あの、それ、美味しそうですね」

「あ?これか?」

和葉は味噌汁を一口飲んで、小豆丼をかきこむ銀時に言った。

「一口もらってもいいですか?煮物あげるんで」

まだ箸をつけていない煮物の入った小鉢を銀時のほうへ寄せた。

「ほらよ」

渡された丼を受け取って、小豆とご飯を一緒に口に入れる。

「おい、竜崎。変なもん食って腹壊すなよ」

土方は不機嫌そうに声をかけた。

当の本人は、宇治銀時丼をゆっくり味わっている。

そして静かに呟いた。

「…おいしい」

「お!本当か?」

「はい。ぼた餅みたいでおいしいです。私、甘いもの好きだし」

和葉が言うと、銀時は嬉しそうな表情を浮かべた。

「へー…お前、俺と趣味合うじゃねーか。俺も甘いもの好きなんだよ」

「なら、きっとその煮物、お口に合うと思いますよ」

勧められて、銀時は和葉からもらった煮物を眺める。

蓮根をひとつ箸でつまんで、口に入れた。

「ほんとだ。うまい」

いい甘さ加減だ。

煮物はこれくらい甘辛いほうが美味しい。と銀時は納得した。

「これ、私用に味を変えてもらってるんです。だから普通のよりちょっと値段は高いですが、これが気に入っているので、値段なんていくらでも構わないんです」

「なるほどな。他の料理も甘いのか?」

「はい。卵焼きなんかもはや伊達巻レベルに甘いです。あ、それと、デザート付きなんですよ、この定食」

「マジか!何ついてくんの?」

「それは――」

「竜崎!!」

二人が盛り上がっているところを、土方の声が遮った。

彼は残り少ない土方スペシャル丼を持って、和葉のもとへ来た。

「お前、これ食え」

「え?」

「いいから食え!」

無理矢理押し付けられた

なんで怒っているのか分からない。

しかもこんな“土方スペシャル(バツゲーム)”まで…

睨まれて、仕方なく土方スペシャル丼を一口食べた。

さりげなく、マヨネーズは少なめで。

「どうだ?うまいだろ」

「…………」

口一杯に広がるマヨネーズは、一瞬しつこいかと思われたが――

「あ…おいしい…」

意外にイケた。

呟く和葉に、土方は満足げにフッと笑った。

「でも、やっぱこっちのほうが…」

しかし和葉は隣にある宇治銀時丼を指差した。

「なっ!?」

すると今度は、銀時が勝ち誇ったような笑みを浮かべて言う。

「腐った味覚してんのはお前のほうみたいだな」

「いや、お前らの味覚がおかしいんだよ」

「まぁまぁ、好みは人それぞれですから」

今にも手を出しそうな二人の間に和葉は立った。

いがみ合う二人を見ていると、子供だな、と思う。

だが、この二人のケンカはなかなか悪くはないものだ、とも思った。

どうでもいい張り合いだが、それはそれで、どうでもいいことを大人がしているのだから面白い。

「今回の勝負は、坂田さんの勝ちです」

和葉は言って、宇治銀時丼を指差した。

「土方さんのも悪くはなかったのですが、残念ながら私は甘党なので」

「よっしゃ」

「…チッ」

喜ぶ銀時に、少し悔しそうな土方を見て、和葉に笑みがこぼれた。

これを期に、この“二人”を、少しだけ好きになった和葉なのであった。




つづく
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