カカシ 短編


□水も滴る風邪男
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そこには、雨宿りをするには丁度よい洞窟があった。

ルミとカカシは、二人でその洞窟に駆け込み、ずぶ濡れになった上着を干した。

外では横殴りの雨風が森の木々を襲い、時に雷が閃き走る。

髪から水滴を滴らせながら、二人はようやく一息ついた。

「困りましたね…」

「ああ…こんな嵐じゃ、さすがに任務は中止せざるを得ない」

カカシが苦い顔をして言うと、隣に座るルミが、仕方なそうに頷いた。

カカシの言うように、この天気では、任務続行は難しい。

自由に身動きすることさえできなかった。

「さて、どうするかな…」

突然の悪天候に、計画は乱れた。

いつおさまるか分からない嵐に、ただ困った。

「とりあえず、もうじき日暮れですし、今日は様子を見た方がいいのかも…」

「そうだな…うん…」

カカシはどこか上の空で、弱々しい返事をした。

妙に疲れきった顔をしている。

「カカシさん?」

「ん?」

「大丈夫ですか?」

「何が?別に大丈夫だけど…」

カカシはゆっくり顔を上げ、平然を装ってそう言った。

それでもルミは不審に思ったのか、カカシに迫った。

「でも、顔赤いし…」

言いながら、カカシの顔を心配そうに除き込んだ。

カカシは「大袈裟だ」と言って笑うのだが、ルミの目には誤魔化しなどきかなかった。

ルミは逃げるカカシを押し倒してまで捕らえると、額に手を当てた。

「熱い…ほら、やっぱり熱出てるじゃないですか!」

「そんな大したことは…ゴホッ」

カカシは赤らめた顔を反らしながら咳き込んだ。

正直、辛かった。

頭は割れるように痛み、時々咳も出て苦しい。

雨に濡れたせいか、熱まで出て寒気を感じた。

「完全に風邪じゃないですか…いつから体調悪かったんですか?」

「うーん…二日前くらいかな」

任務に行く前から、あまり体調が優れた状態ではなかった。

ただ、その時は大した症状もなくて、ただ身体が少しだるいと感じるだけだった。

ここまで症状が悪化したのは、この暴風雨のせいのほかに考えられない。

「もっと早く言ってくれたらいいのに…」

「大したことなかったんだよ。さっきまでは…情けないね、雨に濡れた程度で…」

カカシは項垂れながら、ため息をついた。

ルミは、とにかくなんとかしなければ、とカカシの看病をすることにした。

まずは、濡れて冷えてしまった身体を温めないといけない。

干している上着のコートは、まだ雨水が滴っていて、乾いてはいない。

ルミはいつも羽織っている上着を脱ぐと、それをカカシの肩にかけた。

「寒いですか?」

「おまえのが寒いでしょ」

「いや…大丈夫です。私は熱も出てないし、平気ですから」

上着を脱いだことで肩が丸出しになっていた。

胸上までしかない薄いインナーでは少し肌寒かったが、カカシのためにと我慢した。

「悪いな…迷惑かけて」

「いえ、こちらこそ…もっと早く気づいていれば良かった」

言いながら、ルミは無意識に自分の肩を抱いていた。

それを見たカカシが、すかさず言う。

「やっぱり寒いんでしょ」

「え…いや、そんな…」

「お前まで風邪引くぞ」

「分かりました!じゃあ、こうしましょうよ!」

カカシが上着を脱ごうとするのをルミは慌てて止めると、彼の背後に移動して座った。

そしてその背中に、ぴったりと肩を寄せた。

「ルミ…?」

「こうしたら…私も寒くはないから…」

赤くなった顔を見せないように、カカシの背に顔を埋める。

そして様子を見計らって、ルミはカカシの首元に腕を回した。

「!」

「…嫌なら…嫌と言ってください」

ルミは後ろからカカシに抱きつくようにして、小さく言った。

「それに…たまには私に甘えてください」

「甘える…?」

「はい…やっぱり嫌ですか?後輩に弱味を見せるのは」

ルミは不安な表情を浮かべた。

カカシは横目でルミのルミの顔を確認すると、再び前に向き直って言った。

「いや、温かいから、このままでいたい」

優しく微笑むカカシの横顔に、ルミの鼓動は速まった。

「本当に…?」

「ああ、すごく温かいし、落ち着く。だから、おまえの言うように、今は甘えさせてもらうよ」

カカシは言って、背をルミに預けた。

湿った銀髪はキラキラと輝いていて、綺麗だな、とルミは思う。

そっとその柔らかい髪に触れ、もう一度、上着ごとカカシに抱きついた。

彼を抱く手に、力とぬくもりがこもった。




水も滴る風邪男




end

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