カカシ 短編
□ロスト・メモリー
3ページ/7ページ
家に着いて、オレはルミにお茶を出した。
彼女は緊張しているのか、縮こまってソファに座っている。
お茶を一口飲んだ後、彼女は口を開いた。
「カカシさんは、私の先輩だそうで…」
「ああ…まあな」
「すみません、迷惑をかけてしまって」
「気にしないで。オレも、心配だからさ」
オレは、ルミに笑みを見せて言った。
彼女はひとまず安心したようで、ありがとうございます、と頭を下げた。
記憶を失っても、ルミはルミのままだった。
普段からオレに対して敬語を使っていたし、おしとやかな様子は今も変わりなかった。
記憶喪失であることを忘れてしまうほどに。
「早く、記憶を取り戻さないと…」
ルミは小さく呟いた。
少し、苦しそうな目をして。
「オレは出来る限りの協力はするよ。だから、焦らず、ゆっくり思い出せばいい」
「ありがとうございます。カカシさんって、優しいんですね」
ルミは言ってニコリと笑った。
その笑顔は、以前のルミのものとは違う気がした。
オレと過ごした記憶が、本当に消えてしまったのだと思うと、胸が締め付けられるような切なさが込み上がってくる。
けれど彼女には笑顔を振りまくしかなかった。
「ルミ」
「はい」
「これ、おまえに渡しておくよ」
そう言って、オレはルミに家の鍵を渡した。
「ずっとここに閉じこもっていても、記憶を取り戻す手がかりはそうないからな。気分的にも外に出たいときはあるだろうし」
正直オレの家には何もない。
ルミ自体訪れたこともあまりないのに、こんな殺風景な部屋を眺めていたってどうにもならないだろう。
ルミは小さく頷いて鍵を受け取った。
「それと、非常に申し訳ないんだが、オレもいろいろ任務を抱えててね、ずっとおまえについているわけにはいかないんだ」
「分かっています。カカシさんは、任務を優先してください」
ルミはニコリと笑った。
記憶を失っているといっても、しっかり者のルミなら大丈夫だと思った。
それでも不安のが大きかったが。
「じゃあ、早速で悪いんだが…」
オレはドアノブに手をかけて、肩越しに言った。
「任務、行ってきます…」
言うと、彼女はいきなりのことで驚いていたが、快く受け入れてくれた。
そして、オレに向かってまた笑顔を振る舞った。
「いってらっしゃい。気をつけて…」
.