カカシ 短編


□嫉妬
1ページ/1ページ

「はい、今日のメインは、カボチャの煮物でーす」

彼女はそう言いながら、大きな器に入ったカボチャの煮物を手に、席につく。

ご飯や味噌汁と並んでいる大量のカボチャの煮物を見つめれば、ふいにある男の姿が頭に浮かんだ。

「あれ…カボチャ、嫌いでしたか?」

つい黙り込んでいたオレの顔を伺いながら、彼女――ルミは不安げに言った。

別に、カボチャが嫌いなわけではない。

煮物の隣にある味噌汁の具が、茄子ではなくカボチャなのが不満なわけでもない。

ただ、頭に浮かべてしまった人物のことを、ふいに考えていただけだ。

「ごめんごめん。ちょっと考え事をね」

「…任務のことですか?」

「まあね」

と、いうのは嘘なのだけど…

「冷めないうちに食べましょう」

ルミに勧められて、カボチャの入った味噌汁や煮物を食べた。

もちろん、美味しかった。

ルミの作る料理は何だって美味しい。

が、やはり気になる。

冬至でもないのに、なぜこんなにもカボチャ料理が多いのか…

「ごめんなさい。今日、カボチャいっぱいもらっちゃって…売るほどあるものだから…」

オレの気持ちを察したのか、苦笑を浮かべてそう言う。

「美味しいから、いいよ」

オレはルミを気遣って、微笑んで見せた。

ただ、ひとつ聞いておきたい。

答えは、なんとなく分かってはいたのだが…

「誰がそんなにたくさんくれたの?」

そう尋ねてしまった自分を少し責めながら、オレは答えを待った。

すると案の定、予想通りの答えが返ってきた。

「ゲンマさんからもらったんです。安売りしてたの買いすぎたみたいで」

「ゲンマか…」

「あの人、本当にカボチャ好きですよね」

おかしいくらいに、と笑う彼女が可愛らしかった。

だが、その脳裏に浮かぶのが彼女と仲のいい男の姿と思うと、わずかだが苛立ちを感じた。

我ながら、なんとも小さい男だとは思う。

しかし、仕方のないことなのだ。

ルミとゲンマは、第三者からして見れば、恋人同士に思えても、なんらおかしくはないほど仲が良かった。

オレと付き合う前は、よく二人で食事に行くことだってあったし、ゲンマがルミに告白した、とか、実は二人が付き合っている、という噂を聞くことも多かった。

しかし意地悪にもルミ本人に問うてみれば、“兄のような存在で、恋愛対象ではない”のだという。

正直、彼女の様子からして、そうなのだと分かってはいた。

現に、オレと付き合っているのだから。

が、ゲンマのほうはどうなのだろう。

オレたちが付き合い始めてから、彼はルミに気安く寄り付かなくなった。

彼ながらに気を遣ってくれているのだろうが…

彼はおそらく、ルミに好意を寄せていたのだと思う。

もちろん“現在”も。

もし仮に、ルミとゲンマが付き合うことになれば、オレは、表面上では笑顔を浮かべて、彼女の幸せを見守ることだろう。

しかし、心から“彼女と彼”の幸せを願うなんてことはできない。

残念ながら、オレはそんなお人好しな人間じゃない。

恋愛に関しては、自覚するほど自己中心的だからだ。

「カカシさん…どうしたんですか…?」

オレはいつの間にか彼女を背後から抱きしめていた。

無言でひとり考え込んで、いつしか不安げな表情でも見せていたのか、彼女は肩越しにオレの様子をそっと伺った。

「なあ…ルミ…」

「…?」

ルミは黙って聞き耳を立てた。

オレは彼女にそっと囁く。

「オレから離れるなよ」

「…!」

ルミは驚いた様子で顔を赤らめた。

彼女をいとおしく感じながら、さらに強く抱きしめた。

「急に何を言い出すかと思えば…変なの…」

「そう?」

「もしかして、嫉妬でもしました?」

ルミは少し呆れたように微笑を浮かべて、そう言った。

図星だったオレは、彼女を抱きしめるのをやめて、その顔を見つめ返した。

「ま、そんなとこ」

そう言って、オレは苦笑いを作った。

少しだけ、恥ずかしかったというか、情けないような気持ちになった。

再びルミと向き合って座ると、彼女は笑った。

「カカシさんが嫉妬するなんて思わなかった」

「嫉妬なんてのは大袈裟だよ。おまえも嫌だろ?」

ルミは首を横に振る。

「ちょっと嬉しかったかも…カカシさん、いつも素直に想いを言わないから、悪い気はしないな」

なんとも純粋な言葉だった。

そして申し訳ない、と思った。

ルミみたいな素敵な人の彼氏が、こんな小さい男だなんて…

確かに、今まで面と向かって愛情を囁いたことはさほどなかった。

「嫉妬するってことは、私のこと好きだってことですよね」

今度は少しからかうように笑った。

その通りだ。彼女の言う通り、オレはおまえがたまらなく好きなんだ。

だから少しの嫉妬くらい、許してほしい。

ルミは優しい目でこちらを見つめる。

ドキリと胸が高鳴った。


「私はいなくなったりしません。だから、心配しないで――」

ふわりと笑う彼女の言葉には、きっと裏切られないだろう。

「――私を信じて」

そしてこんなにも自分のこと想ってくれる彼女を、オレは絶対に裏切らないだろう。

少し冷めてしまったカボチャの煮物を、ひとつ口に入れた。




嫉妬




――うん、美味しい。



end

目次に戻る

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ