カカシ 短編
□天使と悪魔になった君
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「で、何があったの?」
つい先ほどまで“通常”であった彼女――後輩のルミにカカシは尋ねた。
ルミは少しの間口ごもると、小さく声をもらす。
「そんなたいしたことじゃないんです…」
いつになくか弱い声を出す彼女は、目さえ合わせてはくれない。
今日、彼女に会ってからずっとだ。
その様子を、カカシは不審に思った。
だから、その冴えない表情の真相を確かめようと、夕食に誘ったのだ。
話せる悩み事ならオレが聞く、と。
あまり深く干渉するのもよくないかとは思ったが、ほうっておくわけにもいかなかった。
一番親しい後輩なのだから。
実は…とルミはおもむろに口を開く。
「バカにされちゃって…」
「バカにされた?なにを?誰に?」
意外にも、ルミが悩んでいたことは、カカシからしてみれば呆気ないことだった。
「先輩のくの一とか、友達とかに…
『“25年間恋愛経験なし”なんてあり得ない!終わってる!理想高すぎ!一生独り身だああ!』
…って…」
ガクリと俯くルミの姿に、かける言葉が見つからなかった。
要するに、恋愛面でいろいろと酷いことを言われたらしい。
任務のことに比べれば、くじけるほどではないと思うのだが、彼女曰く、
「恋愛は努力のしようがない」
とのことだった。
困ったな、とカカシは頭をかく。
「あの、もういいです。こんな話、聞きたくないだろうし…飲んで忘れます」
「え゛っ…!」
いつの間に注文したのか、水と思われていたグラスの中身は、焼酎だった。
カカシの顔が青ざめたのもつかの間、急に彼女は静かになった。
グラスの中身は、もう空だった。
一気に飲み干したらしい。
「カカシさん…」
「は、はい!」
名を呼ばれただけなのに、カカシはびくりと肩を震わせ恐縮した。
なぜなら、この後彼女が“壊れ始める”のを知っているからだ。
また面倒くさいことになる、とため息を漏らしたときだった。
「カカシさんって…モテますよね」
「え…いや…そんなことないよ…」
「嘘だろうが!」
叫びながら、ルミはおしぼりをカカシに投げつける。
「………いや…本当だって」
「羨ましいなー!私なんか誰も寄り付いてこないしね…何が悪いってのよ、顔か?」
「ちょっと、そのへんにしときなさいよ…」
「カカシさんの歴代の彼女さんたちは、さぞかし美人な方たちだったんだろうねー!羨ましいねー!」
「ちょっ!声が大きい!」
止まらないルミの言葉は次第に大きくなり、カカシは立ち上がって彼女の口元を押さえた。
しかしその手を無理矢理退けて、ルミは不満げにこう言う。
「私だってね、彼氏くらいほしいんだよ!」