カカシ 短編


□俺の名だけを呼んでほしい
1ページ/1ページ

「それで、テンゾウが私に――」


隣に座る君は、いつも人の話ばかりする。

それも、心無しか男の話ばかりな気がする。

忍者という仕事柄、たくさんの男と関わっているのだから、仕方ないとは思う。

だからオレも、楽しそうに笑う君の話には、静かに耳を傾けている。

けれど、君は知っているだろうか。

オレが、君に少しだけ“嫉妬”しているということを。

「この間の任務は、ゲンマさんとツーマンセルでなんか怖かったなあ…
足引っ張ってるって思われてそうで…ゲンマさんクールだから――」

「ふーん…」

我ながら小さい男だとは思う。

別に浮気をされているわけではないし、彼女に悪気があるとも思わない。

けど…

「あ!そういえば、昨日アスマさんが――」

「ルミ…!」

オレって奴は、そんな大人びた人間じゃないみたいだ。

「ちょっ…急にどうしたんですかっ!んっ」

オレは無理矢理君を押し倒して、深く口づけた。

呼吸もさせないくらいに、乱暴にその柔らかな唇に食らいついた。

ようやく解放してやると、乱れた息を整えて、オレのことを心配そうに見つめる。

「大丈夫…ですか…?」

「なんで?」

「いつもは、こんな乱暴なことしないから…」

君はそう言ってゆっくり起き上がると、オレの頬にそっと触れた。

「…呼んでよ」

「え?」

「テンゾウとかゲンマとか、アスマじゃなくてさ…」

オレは呼んで欲しいだけなんだ。

誰よりもたくさん、オレの名を。

君のその透き通った優しい声で、呼んで欲しい。

「カカシさん…」

ややあって、君は小さくオレの名を呼んだ。

オレが見つめると、君はニコリと可愛らしい笑みを浮かべて言った。

「大好きだよ、カカシさん」

オレはいつになくいとおしく感じた君を優しく抱きしめた。

何度も、何度も、オレの名を呼んでくれた。

我ながら、単純な男だと思う。

ただ、この一言だけでいい。

ありきたりな言葉だからこそ嬉しいんだ。

君が呼ぶから、嬉しいんだ。

だから、何度でも、何度でも――




俺の名だけを呼んでほしい




end

目次に戻る

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ