special gift

□きっと夢の続きなんだ
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電話によると、彼の所持金は258円。私の所持金は20円。口座にはきちんとあるんだけど、財布にはほとんど入っていなかった。デートの予定は変更、私の家に来ることになった。
退くんの職業は真選組の監察だから、彼の住む屯所には行ったことがなかった。ある知り合いの人なんかは、彼の家でのデートなんていうのを頻繁にしているみたいだから、羨ましくないと言うと嘘になる。でも、退くんの仕事が不定期な以上、わがままも言っていられない。
もうすぐ、彼が来る時間になる。律儀に時間を守ってくれる退くんのことだ、今日もぴったりに来るに違いない。時計の秒針を見つめ続け、針がてっぺんを刺した数秒後には、チャイムが鳴る。



「はあい」



玄関を開けると、そこには退くんがにこにこと微笑みながら立っている。招き入れれば、「お邪魔します」と言いながら、彼は部屋に入ってきた。まるで当たり前のような所作に、今更ながら胸が高鳴る。彼を家に招く時は、いつもこう。私のプライベートスペースに、遠慮しつつも大胆に足を踏み入れる彼が、とても力強く見えた。
お茶を出して一息ついたところで、退くんは思いついたようにポケットをあさり始める。



「見て見て」



出てきたのは、彼らしい無難な黒い財布。わざわざ小銭を出してくれたから、机に広げて一緒にその枚数を数え始める。百円玉が一枚、五十円玉が三枚、五円玉が一枚、一円玉が三枚。



「ほんとに258円だ」



思わず吹き出してしまう私は、同じように財布を懐から出した。そこには、さっきと変わらず十円玉が二枚。退くんに見せると、彼も笑い出した。それにつられて、私も笑い出す。笑いっていうのは不思議なもので、連鎖していく。どうにもおかしくて、頬の筋肉が痛い。
一通り笑い終えたところで、彼は泊まっていっても良いか尋ねてきた。私は別に構わないし、むしろ嬉しいんだけれど、心がかりは退くんの仕事だ。以前にも、何となく良い雰囲気になってきたところで電話が中断したり、いざ晩御飯という時に急な任務が入ったり。それが嫌なわけではなかったけれど、ここから屯所までの移動だったり、それによる退くんの心労だったり、そういうことが心配で。



「仕事はいいの?」



「有給」



何でもないように言い切る彼は、首をぐりんぐりんと回している。疲れているのかと思い、後ろに回って肩を揉んであげる。気持ち良さそうに息を吐く彼の後姿は、やっぱり他の男の人に比べると華奢だけど、私にとっては一番たくましい男の人だ。「後で交代ね」と言う退くんは、すっかり私に体を預けている。
彼の肩は予想通りがちがちで、いくら揉んでも一向に柔らかくならない。相当疲れているんだろう。そんな疲労を私に見せないところも、素敵だとは思う。でも、頼って欲しいのも確かだ。それを言うと、退くんは「あはは」なんて軽く笑い飛ばし、後ろに思い切り体重をかけてくる。
彼と私では体重の差なんて明らかで、二人して床に倒れこんだ。



きっと夢の続きなんだ
   

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