□お帰りました×禄
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黒塗りの車に乗り、欠伸を堪える。
昨晩遅くに数ヶ月ぶりの日本に帰ってきた。
たっぷり単位もとれたから別に無理に今日来る必要はなかったのだが……どうしても行きたかった理由がある。

「……止めろ。」
「え?でも校門はすぐ……、」
「いいから。」

運転手に命令して道の脇に車を止める。
鞄を持って降り、歩道の木の陰へ。

「……ただいま。」
「おかえりなさい。」

学校へ来る理由。
朗らかな笑みを向ける彼女の細い黒髪を撫で、頬に口付けた。
彼女の身体が熱くなるのは気温のせいじゃない。

「なにしてんだてめぇ!!!」

隣にいた双子の兄が叫ぶ。

「挨拶だが。」
「ここは日本だ!フランスじゃねぇんだよ!」
「はっ、ガキが。」
「〜!!」

プルプルと怒るのを見て、この暑い中ご苦労なことだと鼻で笑う。
ガキは感情は剥き出しだがオレらを引き離すことはせずに大股で校門へ向かった。

「あーあー!菊華の頼みで待ってるの付き合ってたのによ!朝っぱらから見せつけやがって……。」

ぶつくさ垂れるガキは放って目の前の彼女に視線を移した。未だ顔の赤みは収まっていない。

「やっぱ待ってたんだな。」
「篠竹先輩に一番に会いたかったので……。」

……ここが通学路じゃなかったら、思いっきり抱きしめていた。さっきのキスも大概だとは思ってるけど。

「行くか。」
「はい!」

子犬みたく尻尾をふる彼女。

「……そういえば、紙袋持ってないんですね。女の子にあげるやつの。」
「もうやらねぇよ。」
「やらないんですか?まぁ、どうかと思いましたけど……恒例行事なのかなって思ってました。」

あまり黒歴史は掘らないでくれ。
校門を潜ると、案の定女が群がってきた。

「禄様ー♡」
「海外公演お疲れ様です!」

「菊華様ー!おはようございます!」
「禄様とご登校なんですね!」

集まるのはいつもの倍……なるほど、だからガキといたわけか。
蹴散らす道具はないし、さっさと抜けよう……としたら、ぐいと引っ張られた。
彼女がオレの腕を組む。

「篠竹先輩、帰ってきたばっかでお疲れだから。静かにね?」

見ることは少ない表向きの王子様スマイル。
黄色い歓声のあと、下駄箱までの花道ができた。

「…………感心するわ。」
「ありがとうございます。……。」

屈め、と手で言われ素直に従うと耳元に口が寄せられた。

「本当は、もう少し私が先輩を独占したいんです。」

あ。可愛い。
考える暇なく屈んだ姿勢のまま唇を重ねた。柔らかい、久しぶりの感触。

「!!!」
「オレにも独占させろ。」

完全に耳まで真っ赤にさせる。
肩を抱いて首だけ後ろの女どもへと振り返り、片方の口角をあげた。
先ほどとは比べ物にならない耳をつんざく悲鳴が響く。

「お前ら〜〜〜!!!!!」

前方から黒髪の女教師が迫り、オレの腕を払って己の背中で彼女を隠す。

「篠竹禄!!風紀を乱す行為は慎めと何度言ったら分かる!」
「あぁ?いつオレが風紀を乱した。」
「自分で考えろ!!……菊華、行くぞ。」
「……うん……。」
「…………食べ頃だな。」

ジュルリ、いや〜な舌舐りの音がした、気がする。
背を向けられてるから顔は分からないけれど、この教師は確実にやばい。桐矢と同じ匂いがする。桐矢の数倍危うくしたらこうなるような……。

「予鈴がもう鳴る。教室へ行くぞ。」
「粂寺ちゃんついてくるの?」
「あぁ。ちゃんと監視しておかないとな。」

女は彼女の腰を掴み普通科の下駄箱へ向かう。
ここで簡単に引き下がるほど我慢できるわけない。
2人にすぐ追いつき彼女を奪い返すと、対面して片手で顎をくいと持ち上げた。

「放課後、生徒会室で待ってるからな。」

一回も二回も変わらないとしようとしたら明らかにオーラが黒い女教師が距離を引き離す。

「お〜ま〜え〜は〜!」
「落ち着いて、ね?」
「菊華!貴様も貴様だ!他人に甘い!すぐに隙を見せる!そんなんだからこんな野蛮な男に引っかかるんだ!」
「……誰が野蛮だと?」
「自覚がないとは言わせんぞ。」
「…………。」

朝の校門でバカみたいに言い合いを始める。
埒があかない。ため息を吐き一人で校舎へ入った彼女に気づけず。



「禄様×菊華様……?」
「アリ……大有ね……。」




後書
校則は『異性交友』が禁止なので『同性』はオッケー
 

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