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□忍びまほしx冬政
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厳しい夏の暑さも過ぎ、金木犀の匂いが町中に広がり始める季節。
縁側で横たわる少女は無防備にも着物一枚で寝息を立てる。
「菊華。」
肩を叩いてもゆすっても起きない。
桜色の唇から声を漏らすのみ。
風邪ひいても知らないぞ。
と言いたいところだが、熟睡してる人間に言っても仕方が無いしそもそも自分自身がこの状態を放置できるわけない。
洗濯物を運んでいる途中でよかった。
膝を畳み、太陽の匂いを存分に吸収したバスタオルを彼女の身体にかける。
いい夢でも見ているのか、ほんの少し笑ったような気もしなくはなかった。
そっと菊華の前髪をかきあげる。
あどけない寝顔は小さい頃と変わらない。
変わったのはそれを見るオレだ。
「……ゆっくり休め。」
歳をとるとは嫌なことばかりだ。
自制を覚えてしまえば、何も出来なくなってしまう。
若気の至り。なぞと昔ながらの言葉があるが全く持ってそのとおりである。
ここで密かに彼女の唇を奪うことは容易すぎることであるのにしないというのは、つまりそういうことだ。
前髪を整え、かけたタオルの微調整を行い、そして聞こえるはずのない空気に溶け込む想いを吐く。
自虐的に笑って立ち上がり、残った洗濯物を定位置に運びに行った。
終
→後書