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□紅梅色x梅樹
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次の舞台で共演となった俺と菊華は菅原屋で稽古をした。
誘ったのはオレの方だし、彼女には何の非もないことはわかってる。わかってるんだが……。
「オレん家の風呂使うなよ……。」
稽古終わりに、シャワー浴びたい。なんて言われてみろ。しかも惚れた女にだ。
確かに今回の演目は舞踊劇で蒸し暑い稽古場に何時間もいたら汗をかかずにはいられない。
理解はできなくはないが、もう少し自覚を持ってくれ。
無駄に広いこの家には浴室が数個あり、先に上がったオレはリビングのソファに腰かけた。
松樹は夜の部に出るので遅くまでいないし、親父達も各々の用事で出払っている。
そういえば二人きりじゃないか。意識すればするほど頭の中が沸騰しそうだ。
「ごめんね。シャワー借りちゃって。」
「ん、ああ。かまわねえよ。」
となりに座る菊華は珍しくもTシャツに短パンとラフな格好。
聞いてみると、“着物よりも持ち運びが便利だから”らしく、無防備に晒される素肌に目のやり場が困った。
「梅樹くんが髪おろしてるの初めて見るや。」
「!」
そんな状況なぞ露知らず伸ばした手はオレの髪を撫でる。
自然と身を寄せてくる彼女に我慢できず、軽く力を入れるだけで折れてしまいそうな細い腕を引っ張り、そのまま抱きしめた。
「……?」
目を丸くさせてこちらに目を向ける菊華はきっと何もわかっていないんだろう。
「しばらくこうさせろ。」
首元に顔を埋めれば、いつもと違う匂いが鼻をくすぐる。
語尾を上げた返事は聞き返したものではなく、混乱しているから。
彼女が温かいのは風呂上がりのせいかはたまた。
きっと今、情けない顔してるんだろうな。
どうとも取れぬため息を吐く。
終
→後書