FF短編(変換なし)
□4.触れることば
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上の人間がいると気を使うあまり楽しくお酒が飲めない、愚痴がいえない。
序列を気にして気配りをし続けて疲れてしまう。
そう思ってあまり部署内の飲み会は参加しないようにしていた。
しっかりとお金は出すけれど。
適当な理由をつけて不参加でいたけれど、長年勤務してくれた部下が寿退職することになった。
流石にこういう席は不参加は失礼なので参加した。
でも、あまり賑やかな席は得意じゃない。賑やかな席はそれだけでとても疲れる。だからと言って嫌いなわけではなくて、ただ少し、得意じゃないだけ。
送迎会はたくさんの人が参加した。
面倒見もよく、仕事も出来て、いい人材だったのだがめでたい事だから仕方がない。
幸せそうに周りから祝われる部下がなんだか誇らしかった。
送迎会はもともと2時間の予定だったが皆のテンションが上がってずるずると延長してそろそろ3時間目に突入する。
店側も気前よく、お酒や料理を注文をする団体客に時間ですと言わないのでお酒が回った部下達が楽しそうに会話している。
「統括、飲んでますかー?」
「ええ、頂いてますよ」
「統括ー。姐さんがいなくなったら僕達回せる自信ありません・・・」
「大丈夫、皆さん十分出来ていますよ」
笑い上戸、泣き上戸、テンションが上がる人、下がる人。
黙りこくる人、寝ちゃう人。
お酒の酔い方は十人十色だった。
こういうのも飲み会の楽しみ方の一つだと思いながら、ちびちびとビールを飲む。変な酔い方をして部下に迷惑をかけるわけにもいかないので、量に気をつけながら。
「もう飲まないの?」
「お腹ちゃぽちゃぽしてるから」
「えー?」
飲み会あるある、無理やりお酒を飲ませる光景かと思ったが、うまく断ってもう皆手をつけてないサラダをチマチマ食べている女性社員が目に入った。
周りと適当に会話しながら残り物を頑張って処分している。
顔も赤くなってないし、呂律も回っているし、動きも問題ない。
放っておいても大丈夫、そう認識して他にも無理に飲ませてる人がいないか、飲まされている人がいないか、適当に会話しながら見る。
飲み会あるある、飲まされて泥酔して店に迷惑をかける、は避けたかった。
今のところ問題ないようだが、もくもくと残った料理を食べている小柄な社員が気になった。
飲み会時間も3時間を越えて。
お皿が結構詰まれて、空きグラスも結構ある。
もくもくと料理を片付ける彼女は周辺の料理とグラスを片付けると隣の女性社員に声をかけて、ポーチとハンカチを鞄から取り出して席を立った。
彼女が席を立って10分以上経つ。
皆出来上がっているし、それを気に留めるような人もいない。
なんとなく気になってお手洗いに行くといって席を立った。
もしかしたら気持ち悪くなって何処かで動けなくなっているのかもしれない。
とりあえずお手洗いの方へ行く。
ちょうどお手洗いから出てきて、すれ違ううちの社員ではない女性。
ここのお手洗いは男女別々で1つずつ。(女性社員がそう言っていたので知っているだけで入った訳ではない)
と言うことは今女性のお手洗いは空で、彼女はいないことになる。
特にお手洗いに行きたくて席を立ったわけではないので反転して廊下を歩く。
休憩用に数個椅子が所々に置いてあったりとこのお店は飲んだくれにに慣れている。
結局何処にもいなくて、戻ったのだろうかと思ったが、丁度入り口方向から電話をしながら入って来た人がいた。
手ぶらで携帯しかもっていないので店の客が外へ電話しに行った、と言うところで。
もしかしたら?と思って徐に入り口に向かう。
店の外に置かれている長椅子に座って、ぼーっと空を見上げている彼女がいた。
「ぁ、統括」
私を見て立ち上がろうとしたので、手で制すとそのまま座った。
少し奥に移動してくれたので私もそこに座る。
「具合、悪いんですか?」
ふるふる首を振って「大丈夫です」と答える。確かに具合が悪いようには見えない。
あまり彼女は喋る方ではないようで、その後黙ってしまった。
ただ空を見上げながらぼーっとしている。
横目でそれを見て空を見上げた。
魔晄を吸い上げるの光が遠くで見えつつ、街頭や店の明かりでミッドガルの夜は明るく、星が見えることは少ない。
今日は満月だが階層マンションの上層ででもないとなかなかそれも綺麗には見えない。
「今日は」
「?」
彼女は上を向いたまま、小さな声で呟くように言った。
後ろからは店の中の声が聞こえる。
それでも彼女の声はしっかりと聞こえた。
「皆楽しそうで」
「ええ」
御めでたい席ですしね。
皆楽しそうでした。
「それはとても良い事なんですが・・・賑やかなところって苦手で」
私もそうです。
なんとなくこう、得意じゃなくて、疲れるんです。
「疲れるんです」
そう言いながら目を瞑って軽く息を吐く。
呟く彼女の言葉と考えが重なって少し笑った。
「・・・そうですね」
しばらく二人で空を見上げた。
それ以上会話はなかった。
誰かといて沈黙は少し苦手だ。何か話さなければいけないかと思うから。
でも彼女といても特に苦にはならなかった。
「私が」
上を向いていた彼女がこちらを見た。
「私が居なくても、皆あまり何も思わないと思うんですが、統括がずっといないと心配されると思うんですが・・・」
そうかもしれない。
「そうですね」
どこか行って欲しい、一人にして欲しい、そういう雰囲気ではなく、彼女は純粋に私と周りを心配してくれているだけだとわかる。
でもなんとなくもう少しここに居たい。
「でももう少しだけ、私も休憩したいので」
「ここに居てもいいですか?」
にこりと笑う彼女の笑顔にアルコールが一気に回った気がした。
気付かれないように上を向いて空を眺めた。
偶然か、満月が綺麗に見えた。
「月が」
あたりは明るいが、月明かりでなのか。
少し青白く照らす光がとても綺麗で。
「綺麗ですね」
彼女は答えなかったが、肯定も否定もしない代わりにまた空を見上げた。
*
今日は満月。
高層マンションでなら月はとてもその姿が綺麗に見える。
「リーブさん」
「なんですか?」
にこりと笑って月明かりをバックに言った。
「今日は月が、綺麗ですね」
「・・・そうですね」
ドキリとしたが、そのままの意味で答えた。
だがその回答は気に入らなかったようで頬を膨らませて首を振った。
「違うそうじゃない」
意味は解っている。
でも、今ちゃんと答えてしまうとあの時言った言葉がそうだったと肯定するようで、なんだか気恥ずかしかった。
あの時は純粋に綺麗だと思ったから言ったのだが、それは月も。
・・・月で照らされる貴女も綺麗だと思ったから。
あの時はまだこの心は知らなかった。
どうするか悩んでいると小指を掴んで下から覗き込むように見上げられる。
首をかしげて。
不安そうな顔をするものだから。
「・・・私もですよ」
そう答えるのが精一杯だった。
4.触れることば
お題提供:確かに恋だった
恋はナンセンス7題
Web拍手に置いていたものでした。
月が綺麗ですね。
でも多分ミッドガルでは月は綺麗に見えないと思うんですよね。
正直ミッドガルの人って、特に魔晄炉の近くに住んでいる人達。
遮光カーテンを引いてもすごい明るくて大変なんじゃないんでしょうか。
遮光カーテンをぴったり窓枠に貼り付けて、家に入る光を妨げたとしてもとんでもなく明るい気がするんですよね。眠らない街ミッドガル。都市全体が眠らない街だったらすごい事ですよね。
田舎はいいです。月も星も見えますから。
何の話なのやら。
拍手ありがとうございました!!