FF短編
□Secret
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『(あかん、どうしようか)』
ケット・シーは真剣に悩んでいた。
厳密に言えば、ケット・シーを動かしているリーブが出張先のホテルで一人、悩んでいる。
約一ヶ月にも及ぶ長い出張遠征。
名無しさんを置いていくのが心配で心配で仕方なく、苦肉の策でケット・シーを上手い事誘導して名無しさんの家に置いてきた。
名無しさんはケット・シーはただのぬいぐるみとしか思っていない。
贈られたケット・シーはTVの近くの棚に置かれたので、部屋を見渡せる棚に置いてインテリアの一つとして飾られていた。
だからこそ悩んでいた。
『(あかん、リンク切らなあかん)』
リーブ自身も出張は遊びで行っているわけではないので、四六時中ケット・シーを通して名無しさんの洞察を伺えるわけではない。
緊急事態に、何かあった時に、名無しさんを守れるように置いてきたつもりだったが実際は暇さえあれば名無しさんを確認していた。
ケット・シーはリンクを強めている時は自身で動かせる。
が、構っていれない時ももちろんあるのでオート機能で動かしている時もある。
名無しさんの前では動かせないので殆ど動かす事はないのだが。
「リーブが帰ってくるまで、後10日」
卓上カレンダーに×印を付けていく名無しさんの姿が可愛くて思わず顔が緩む。
「長いなぁ・・・」
×印を付けた後、帰還予定の日を指でなでる名無しさんが以外で、可愛かった。
出張へ行く前は普段通り
『一ヶ月出張?ご愁傷様。お土産よろしくね』
と軽く言って寂しそうにもしなかったのに、実際はこの通り。
本当は寂しく思ってくれている事にリーブの顔は緩みまくった。
「・・・ま、言うても仕方ない。お風呂でもはいろ」
この言葉にリーブは固まる。
名無しさんは部屋に一人という事で気にもするわけも無く、そのままシャツを脱いで下着姿になる。
『(あかんあかんあかん)』
恋人とはいえ、誰も居ないと思っている名無しさんを覗き見るような事をしてはいけない、と思いながらもリンクを切る事が出来ずそのまま覗き見を続ける。
名無しさんはもちろん気に止める事もなく普通に下着も脱いで、ズボンだけ履いた状態で自身の胸に触れた。
「こう、もうちょっとあればなぁ・・・」
背中の肉を前に寄せるように両手で胸へ肉を手繰り寄せる。
お腹の肉も上に寄せるように上げて手で谷間を作っていく。
ケット・シーの位置から正面にいるので全部丸見えだった。
「こう、ここら辺まで・・・」
一人で理想の胸のサイズを想像しながら手で肉を手繰り寄せたり持ち上げたりする。
名無しさんの胸のサイズに不満を持った事はない。寧ろ手からちょっと零れるぐらいのサイズ感でいいと思っている。
あまり大きすぎると他の男の視線が行くから気に入らないし、いい気はしない。
普通に下着を付けたらくっきりと谷間も出来るし、シャツのボタンが1個でも外れていたらその谷間が垣間見えるのでよくボタンを閉めたものだ。
一緒に居るときは触ったり揉んだりしても別に怒らないし、こんな風にケット・シーを通して見なくても見れる。
だが今は離れているし、後10日も禁欲生活を強いられている。
これは地獄だ。
「そうそう、このぐらい、あれば・・・」
葛藤を他所に名無しさんは名無しさん自身の理想の胸のサイズを成型した。
それは確実に他の男の目に止まるぐらいの、それでいて大きすぎないくらいのサイズだ。
そこに下着を着けて、シャツでも着て、上ボタンを二つ程外せば確実にどんな男の目に止まるいいサイズになる。
「・・・リーブ、このぐらいの方が好きかなぁ・・・。おっぱい好きだもんなぁ」
噴出しそうになるのを必死に堪えた。
笑いではなく、予想外の事を言われて驚いた時の方だ。
確かに良く揉んでいる。気がする・・・。とリーブは自身の手を見る。
少し指を曲げて、名無しさんの胸のサイズはこのぐらい、と確かめるように。
女性の胸は男の浪漫である。
それは他人であれば大きくて見栄えのいいモノがいい。
でも自分の恋人であれば小さくても大きくても別にどちらでもいい。
リーブの感覚としてはそんなもの。
「生理の前ぐらいはこんなものかな。いつも以上に触ってくるからなぁ・・・」
ホルモンの関係で少し大きくなる人もいる、と聞いたことがあった。
確かにいつも以上にしつこく触っている気もする、と再確認する。
というよりも、自分の行動に名無しさんはそんな事を思っていたのかと再認識させられてなんとなく恥ずかしくなる。
『(そんなつもりなかったんやけどなぁ・・・)』
一人で呟いて、少し自己嫌悪していると頭にケット・シーが見ている映像が流れてぎょっとした。
前かがみになって、片腕で胸を下から上に持ち上げてから更に理想の胸を成型していた。
谷間がくっきりと見えて、腕から溢れんばかりの肉が盛り上がっている。
「んんん・・・」
正面から胸をどうぞ、と見せられるより谷間を見せ付けられてどうぞ?と見せられる方が確実に男心を射抜く。
鼻の奥が熱くなって、そして下半身が少し熱くなる。
「(いやいやいやいや、あかん、もうホンマにあかん。名無しさんのプライベート覗くために置いてきたんとちゃうんや!)」
理性はそう叫んでいるが、本能が全くいう事を聞かずケット・シーとのリンクを切る事はない。
もちろん知る由も無い名無しさんは理想の胸を成型して、結局それには成らない事に虚しくなって上半身裸のまま何かを考えていた。
「あ、そうだ」
名無しさんはもちろん特に隠す様子も無く上半身裸のままクローゼットを開けて、何かを探す。
流石に角度的に何を探しているかは解らない。
しばらくそのまま待っていると、クローゼットに閉まってある探し物を見つけたようで
「あった。その場のノリで買ったけど結局一回も着てないや」
と言いながら探し物を取り出した。
『(ノリ?着る?)』
切らないといけない、という思考は完全に何処かへいったリーブは名無しさんをなんとか見える角度で凝視する。
何か青色の服のような物を持っていることは名無しさんの背中越しだったが確認できた。
「これ、ブラは着けるのかな?いやこのまま着るのかな・・・」
ごそごそと服を着ている名無しさんは確認できるが「何か」までがしっかりと見えない。
少しだけ、ほんの少しだけケット・シーの首を動かして名無しさんが見えるように調整する。
青いキャミソール、にしては少し長めで尻下辺りまで隠れる長さで、と言うよりかなり透けているように見える。
肩甲骨の辺りまでは青い生地で透けていて、そこから下は白い生地で作られていて、尻の下辺りはたっぷりのレースで装飾されている。
普通に服を着たはずなのに腰のライン、着たままのスウェットが透けて見える。
「これでいいのかな」
そういってスウェットを脱いで、ショーツも一緒に脱ぎ捨てる。
青いキャミソールから透けて尻がしっかりと見えてリーブは手で口を押えた。
「(・・・ぅぁ・・・)」
ごくりと生唾を飲んでその後の行動を見守る。
クローゼットから何かもう一つ取り出して、屈んで片足ずつ通していく。
「(っ・・・!!!!!!)」
「あ、結構食い込む・・・」
足を通したもう一つはショーツで。リーブの角度から見ると尻の割れ目にしっかりと食い込んで、割れ目より少し上の部分がレースで少し装飾されたショーツだった。
キャミソールは透けているのでショーツの装飾もかなり鮮明に見える。
名無しさんが首だけ振り向いて自身の背中と尻を確認するように見る。
一瞬ドキッっとしたが、バレる事はない。ケット・シーの首が少し動いている、なんて夢にも思うはずが無い。
「わー・・・結構見える」
結構どころか普通に見える。その感想をそっくりそのまま言ってあげたい。リーブは口を押えたまま様子を伺う。
「んんんん・・・」
名無しさんは尻あたりを腕で押えたり、先ほどとは反対に首をひねったり。
レース部分を持ち上げて自身の後姿を確認する。
身体をくねらせて、尻を突き出すような体勢にしてショーツがどんな風に見えているのかなど確認している。
『(・・・っ、これは・・・)』
後姿をある程度確認できた名無しさんはそのままくるりと回った。
レースがふわりと浮いて、キャミソール生地がバルーンのようにふわりと膨れた。
何度かくるくると回って、ケット・シーに正面を向いた状態で、後ろを気にするように首を後ろへ向ける。
正面から名無しさんを見てリーブは遂に理性が飛んだ。
『(・・・や、ば・・・)」
正面は後ろと同じように青い生地で透けていて、でも背中ほど透けてはいなく。
特に胸の、乳首のある辺りはうっすらとしか見えず。
下乳の所でレースのリボンが結ばれていて谷間部分のところはばっくりと生地がない。
下着はつけていないので先ほど成型した時の様に出来ていたような谷間に縦線が入るようなモノではなかったが、リボンで結ばれている事によって、胸の丸みがくっきり強調されていた。
お腹の辺りは背中同様に白き生地で殆ど見えていて、ショーツの辺りでレースがたっぷりと誂えられている。
が、斜めに生地がカットされているのでショーツが生地で邪魔される事なくしっかりと見える。
正面から見るショーツは割りと普通だった。
が、両恥骨のあたりに紐が見えて隠さなければ成らない部分にしか布地が無い。
この何ともいえない、見えなさそうで殆ど見えている、下着とはとても言えない下着に押えていた口と手が震えた。
自身の服装に何とも言えない顔をして名無しさんは目を瞑る。
「・・・リーブ、こう言うの好きかなぁ・・・」
『(めっちゃすき・・・なにそれ・・・)』
見たい。でも遠く離れた場所にいる恋人の行動に口を押えながら強く目を瞑って、身体が震えた。
頬は紅潮していて、下半身が兎に角熱い。
今すぐにでも抱きしめて、押し倒したい衝動に駆られる。
でも今リーブは名無しさんの傍にいない。
『(生殺しやで・・・)』
目を瞑っている間に名無しさんは移動したようで、はっと気付いた時にはケット・シーの視界が中に浮いた。
「ケットはどうおもうー?ご主人様はこう言うの好きそうかにゃー?」
正面から、近距離で、可愛らしく着飾った恋人が、愛らしい笑顔でケット・シーに話しかけていた。
しかも猫撫で声のおまけつきで。
『(っ・・・!!!)』
バレる訳ないのだが、血の気が一瞬引いて、すぐに血が逆流するように全身を駆け巡るのがわかる。
心臓がバクバク言っている。
「ノリで買っちゃったけど、使う日はきますかねぇ」
『(え!着てくれへんの?!)』
リーブを他所に名無しさんはケット・シーをぎゅっと胸に抱きしめる。
「リーブ、早く帰ってこないかなぁ・・・」
今すぐ帰りたい、今すぐその部屋に行きたい衝動に駆られたが物理的に絶対に無理だった。
「早く帰ってきてよ、・・・ばーか」
寂しそうな声でぎゅっともう一度ケット・シーを抱きしめて、暫くそのままでいる名無しさんに胸が熱くなる。
早く帰ろう、早く帰って一晩中抱きたい。
「さて。お風呂はいろ」
ケット・シーを再び棚に座らせて名無しさんはそのままバスルームへ行ってしまった。
残されたリーブとケット・シーは身じろぎせずその場で固まっていた。
「名無しさん、ごめん・・・はよ帰るから・・・」
ケット・シーとのリンクは静かに切った。
「はぁ・・・。これ、どうしたらええねん・・・」
熱くなっている自身はスウェットを履いていると痛い。
リンクを切って数分経過するが、名無しさんの可愛らしい姿が頭から離れず治まる気配も無い。
「・・・出先で、一人でとか・・・。地獄やん・・・」
頭を抱えながら立ち上がって、トイレに入った。