FF短編
□Hair
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腰まで届く長い髪が自慢だった。
でも別に自ら自慢するとかそういうことはない。
ただ、毎日念入りに手入れして、保つためにお金もかけて、綺麗に保ってきた自慢の髪だった。
Hair
いつも綺麗だね、うらやましい。
―そんな事ないよ
癖もなくてまっすぐで、艶もあって絹みたい。
―普通にしてるだけだよ
何を使ったらそんなに綺麗なの?
―特別なことは何もしてないよ
当たり前だ。
一体この髪を保つのに何時間、何ギルかけてると思ってる。
頭皮ケアに、髪質を保つためにコンディショナーやトリートメントで痛みを補正して。
月に一体何ギル使ってると思ってる。
長い長い髪が痛まないように必死に時間をかけて梳かしながらブローして。
一回洗ったら乾かすのに1時間近くかかる。
ブローでも痛まないようにオイル、ヘアミルク、紫外線のケア。
痛まないように寝る時だって最善の状態で。
不健康な仕事がら出来るだけ食べ物や、生活習慣にも気を使って。
味気ないご飯を食べたり、髪に必要な栄養が入ってる高いサプリメントを飲んだり。
自分で言うのも何だが、
「(死ぬほど気を使ってるからだっつーの)」
とはまぁいえないわけで。
。
何もしてない、普通のことだけしてる。で押し通す。
気を使ってない同性を見るとげんなりする。
顔面綺麗でも、髪がバサバサ、枝毛もすごいとかだと一気に美意識が冷める。
髪は女の身だしなみのひとつだ。
髪が手入れされてないと、どんなに綺麗な服を着ていても半減だ。
よっぽどちぐはぐな服装をしてたり、下手なメイクをしてたりしていても綺麗でツヤツヤの髪の同性のほうがよっぽど綺麗に見える。
男がどう思ってるかは知らないけど。
「って考えると主任は罪ですよね」
「なにがだ・・・」
主任のツォンは直毛、黒髪。
男なのにとんでもない艶で、枝毛や切れ毛なんてもちろん見当たらないし、風でぐちゃぐちゃになっても、ちょっと手櫛を入れればすっかり元通りだ。
「髪ですよ。髪の毛!」
「はぁ?」
サラリと揺れる髪が憎い。
もしかしたら男で髪にとんでもなく気を使っていて、私と同じぐらいケアしているかもしれない。
でも絶対違う。
「主任、髪の毛のケアはなにしてますか」
「・・・何もしてない」
「・・・本当のところは?」
「してない」
本当にしてないなら、とりあえず憎い。
「下らんこと言ってないで行くぞ」
「うぃー」
今日の任務は制圧。
レノとルードが先行、主任と私で後衛。
銃火器メインの主任と私で援護にはいる形になる。
簡単な任務だったハズのに。
「あ」
レノがロッドを振り下ろして、ルードがそのまま蹴りを入れた。
見事にそいつが吹っ飛んで、それが
「えええええ、ちょ、まっ」
グシャ
っといい音がして私にぶつかった。
ぶつかった衝撃で壁に思いっきり吹っ飛ばされて、吹っ飛んできた奴の下敷きになる形で地面に倒れる。
運悪くその後、瓦礫が上から降り注ぐ。
あ、これ大怪我確定。
と思った瞬間に
「サンダラ!」
レノがいかずちのマテリアを発動させて瓦礫を吹き飛ばす。
緑色のマテリアが輝くと同時に、薄い青色のマテリアも輝く。
「あ」
「いっ、いったあああああああ!!」
「・・・ぜんたいか、つけっぱだったぞ、と」
普通より威力が低いとは言え、瓦礫とその下にいた私たちにも雷が落ちる。
瓦礫は雷で砕かれて、破片が散らばった。
散らばる破片の落下が収まって、私は完全にノックアウトした上に乗っているいる肉を蹴り飛ばして、レノに回し蹴りを入れる。
「レェェェノオオオオオ!!!」
「・・・俺のせいじゃないぞ、っと」
軽く避けられたので、サブマシンガンで打ちまくる。
またこれも簡単に避けられて弾切れ。
しばし攻防を繰り返すものの、レノのスピードに負けてお開きになる。
「レティ」
「あぁ?!」
元はといえばルードが蹴り飛ばしたのが原因だけど、問題はそこじゃない。
「後ろ」
「何?!」
ルードに言われた後ろが何なのかわからず振り返った。
特に周囲に変わった様子はない。
振り返った時にふいに後ろ髪を引っ張られた。
物理的に。
「いった、何?!」
「名無しさん、ここやべーぞ」
「はぁ?」
引っ張った犯人はレノ。
後髪を手に取りしげしげと眺めている。首だけ振り返ってみるがうまく見えない。
「ここら辺、ぐしゃぐしゃになってる」
「えぇ!」
レノから髪をひったくって後髪を前に持ってくる。
毛先から10センチほどがチリチリになっていたり、パーマを当てたかのようになってたり、幾重にも折れ曲がっている。
一目見て再起不能、と言うようなぐらいぐしゃぐしゃ、いや。滅茶苦茶になっている。
雷で髪がこげた。壁にぶつかって、下敷きになったことでめちゃめちゃになった。
「最悪、最悪!!レノ!!!」
「そもそも蹴っ飛ばしたのはルードだろー!」
「そういう問題じゃねぇえええ!!」
レノに盛大に罵倒した後、その場に崩れ落ちた。
「っ、ぁ、れ・・・?」
立っている事が出来ず、膝を着いてその場で固まる。
雷の魔法を受けて、全身がビリビリ震える。レノとの攻防の間は怒りに身を任せて暴れることが出来たが、脱力下ことによって動けなく、歩くことが出来なかった。
歩けない私をルードが背負って現在撤収中。ヘリの操縦はレノがして、主任は電話で報告をしている。
ヘリに乗せてもらったので座席に大きなため息をついて座る。
震える手でスーツの土埃を払おうとするが腕が上がらない。
手を見ると瓦礫で切ったのか所々血がにじんでいる。
身体は動かない。腕上げようとすると痙攣していてまともに動かすことが出来ない。
「最悪!」
ヘリが会社にたどり着く。
最初は感じなかったが、顔とか手が少し痛む。顔の傷は見えないがかすった程度だとは思う。
回復するかと思っていた痺れもどうも取れない。
結局またルードに背負われてオフィスへと戻る。レノはヘリをポートに収容しに、主任はそのまま副社長室へ行ったので、ルードと二人で戻ることになった。エレベータに乗り込んで一息つく。
身体がうまく動かない。ルードに掴まる力もはいらず、肩口に頭を乗せてうなだれる。私を支えているのはルードの両手だけだ。
「るーどぉ・・・」
「なんだ」
「後で魔法・・・」
「痺れが取れるかはわからんぞ」
「うん・・・」
エレベータが64階に到達したとき、ドアが開いた。
頭が重い、動かない。
視線だけ開いたドアに向けると数人のスーツ姿の男女が目に入る。
「・・・どう、したんですか」
男性が固まってルードと私を凝視している。
ルードは特に外傷はないが、私は全身土埃まみれだし。なんなら顔も多分傷だらけだ。
「失礼、リーブ統括。重症だったものですから・・・メインエレベータを使用しております」
背負っている私がいるので、降りずにオフィスまで行かせてくれと示すようにルードはエレベータの端に寄り軽く頭を下げる。
数人が怪訝そうな顔をしたのが目にはいったが、身体が動かない。
「・・・いいえ」
統括がそういって首を振ってエレベータに乗り込んだので、後ろにいた数人もなるべくルードから離れるように乗り込んだ。
どこかの階層ボタンを押してエレベータのドアが閉まり下層へと動き出す。
全員ルードと私から背を向けているが、統括だけは心配そうにこちらを見ていた。
「・・・あの、ルード君」
「はい」
ポケットからハンカチを取り出してルードに差し出す。
ルードに、と言うよりは私のほうを見て。
「・・・どうぞ」
「ありがとうございます、が・・・」
ルードは両手が塞がっている。
私は単にルードに乗っかっている、と言うよりはルードに身を預けて腕と頭がルードの肩に引っかかっているだけで身体も動かない。
標準体重とは言え、成人女性の体重は50kg前後。ルードがいくら肉体派とは言え片腕で支えるのは難航する。
「名無しさん、動かせるか?」
「・・・むり」
ルードが何とか片腕で支えようと前のめりになり、体制を変えようとすると
「ルード君、そのままで」
一歩前にでた統括が私の顔にハンカチを近づける。
顔に触れたハンカチの感覚はあまりない。だがハンカチは黒く、そして赤黒いシミを残した。
「・・・ありふぁとう、ございます」
口が回らずうまく話せなかった。
30Fに着いたが統括は降りなかった。
「先に行っててください」
一緒に乗った男女を先に下ろして、エレベータの開閉ボタンを押す。
ルードも私も何も言わなかった。
10Fの総務部エリアまで来ると開閉ボタンを押してルードが出るのを中で待ってくれている。
「さ、降りて」
「ありがとうございます」
ルードが軽くお礼を言ってエレベータを降りる。続いて統括も降りた。
「・・・統括?」
「心配なのでご一緒させてください」
サングラスをしているルードの表情はわからないが、特に気にも留めていないようで軽く頷いて歩き出す。
続いて統括がその隣を歩いた。