FF短編

□Smoke
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ふーっ、と紫煙を吐く。

口の中に苦味とメンソールの味が残る。
世間は煙草を吸う人を嫌う傾向だが、需要があるからコンビニでもスーパーでもどこでも売っているのだ。



お酒はあまり世間的に難色を示さないくせに、煙草には難色を示すなんて世の中不公平に出来ている。




まぁどう言われ様が止める気もないけど。




Smoke





ビルにも喫煙所は一部エリアを覗いて10階ごとでフロアに設置されている。

最近では喫煙所など不要!という声も多いというがそもそもこの会社のトップが葉巻を吸うのだから大きな声で取り壊し!廃止!とはいえないらしい。





そう考えるとうちの会社はとてもありがたいことで。





仕事がひと段落したので、煙草を吸いに来ているわけだが、私のオフィスは10Fの総務部エリア。
だのでいちいち喫煙所があるフロアへ行くのが面倒くさい。

オフィスを出て、エレベーターないし、エスカレーター、もしくは非常階段で該当フロアまで行く必要がある。




1F〜10Fまでに喫煙所はない。
物販フロアがあるのに、ないのはおかしい。
建前は9Fまでは一般来客も入れるので社員以外が進入できる空間があるのから駄目なんだそうだ。



喫煙所の入室ロックでもつけりゃいいだけだろ・・・。



20Fは科学部門。
危険な薬品とか、臭いが移ってはいけないものがあるとかなんとかで、ない。



まぁ火を使うわけだし。
わからなくもない。が・・・。





30F〜60Fまでは各0の付くフロアの、エレベーターから一番遠い場所に設置されている。



64Fから上は階層ごとにある。
社長が移動するエリア範囲内だからだ。

まぁ社長は喫煙所なんか使わないけど。



私のオフィスから一番近い喫煙所は30F。

10Fから30Fにあがるのにエスカレーターも非常階段も時間がかかるので除外。
エレベーターで移動してそそくさと喫煙所まで歩く。



総務部がウロウロしていると時々怪訝な目で見る輩がいるから面倒くさい。
特に都市開発はまじめが多いから余計だ。




だから俺は40Fまでいくぞ、と。
と先輩は言う。
でも先輩は殆どオフィス内で吸っている。オフィス内で吸わないのは主任がいる時だけだ。

同僚たちは殆ど吸わないので付き合ってもくれないし、寧ろ辞めろと口うるさいやつもいる。




エレベーターに乗ってしまえば30Fでも40Fでも一緒だが、10F上がるのに止まらずに行けば約2分、一度全階層止まったときは到着するまでに8分もかかった。

8分かかって移動して、吸ってまた戻って15分以上かかって主任にえらく怒られた。


そんなリスキーを起こすぐらいなら近い階層でいい。
怪訝な目で見られるのなんて慣れっこだ。




まぁ今日はもう殆ど人もいない時間だから、誰にも見られることもなくたどり着くことが出来た。






紫煙を吐くと換気扇の中に煙が吸い込まれる。その様を見るのがなんとなく好きだった。
寒い日に息を吐くと空に白い息が出るが、あれは寒い日限定だがが紫煙は日中でも、夏の暑い日でも、どんな時でも白い煙が出る。
なんとなくそれが好きだ。






喫煙所にも誰もいないから、ヒップバーに腰掛けてガラス壁にもたれかかる。
無意識に携帯を取り出してアプリを立ち上げる。息を吐くようにニュースサイトやまとめサイトを観て簡単な情報収集する。別にしっかり見ているわけではなく、ただなんとなくだ。

考え事をするときに煙草は最適だ。複雑なことを考えている時は駄目だが、何かひとつの事を考える時に火をつけると最も集中できるし、考え事をリセットするのにも最適だ。








煙草を咥えて煙を吸い込む。
肺に紫煙を入れると頭が少しふわっとする。
でもこの感覚が癖になる。
立派なニコチン中毒者だ。







煙草を吸ってると色々リセットして無心になれる。
総務部の仕事は好きだ。
けど時々上の決定にやるせなくなる時もあるし、やりたくない、間違っているといいたい時もある。





まぁでもそれが仕事だし、仕事だと割り切るしかない。




ぼーっと煙草を咥える。
じじっと紙と葉っぱが燃えていく。


今日は業務上の壁を取り除いた。
それ自体は大したことないが、どうにもこうにも、何かが費える瞬間は好きになれない。








『お前ら、絶対に――――――』





許さない





そういって絶命したあの壁は何をそんなに許さないんだろうか。
人の想いというのは実に複雑怪奇だ。
紙くずを命を賭けて守ろうとするやつもいれば、その紙くずを平気で燃やすやつもいる。




このミッドガルは神羅があるからなりたっている。
それはあいつらも同じだろう。


恩恵を受けたことがあるだろう、恩恵を受けていただろう。





それなのに





「よふわからふね、人間っらやふはさ」






煙草を咥えながら独り言。
じじっと煙草が燃える。





コンコン





ガラス壁が叩かれてふっと後ろを振り返る。
長身の男性が立っていた。





「名無しさんさん」





外の声は聞こえなかったが、読唇術は心得ている。名前を呼ばれたのがわかった。





「リー、うわ、あっつ!?」




ずっと灰を落していなかったから考え事をしていた時間の分だけ煙草が灰になっていた。
驚いた拍子に咥えていた煙草も口から落ちた。












私の反応をみて慌てて喫煙室のドアを開ける。




「名無しさんさん大丈夫ですか!」





膝に落ちた灰は無意識に払ったからもう熱くはない。
幸い灰に火種は殆ど付いていなかったからか、スラックスも焦げてもいない。





「大丈夫です、ちょっと灰が、びっくりしただけで」





パンっとスラックスから灰を払って、床に落ちた煙草を拾って灰皿に投げる。
火種はフィルターまで達していて火は消えていたので床も焦げてない。





「ごめんなさい、驚かせてしまったようで」
「いえ、リーブ統括に驚いたわけではないので、自業自得です」






そうですか、と言いながら統括はヒップバーに腰掛ける。
煙草も吸わないのにここに留まるようだ。



「あぁ、コレ。どうぞ」




ポケットから缶コーヒーを取り出す。




「あ、ありがとうございます」





ブラックの缶コーヒー。
統括は自分の分も取り出してプルタブを開ける。
加糖のミルク入りのコーヒーだった。




「今日は遅いんですね、こんな時間まで」
「ちょっと前まで4番街にいて。仕事も終わりましたので報告書を書いていました。終わったので帰る前に1本、です」



4番街、と聞いてあぁ・・・、と眉をひそめた。





「・・・怪我はしませんでしたか?」
「ええまぁこのとおりで」





あんなぐらいでは怪我するほうが難しい、簡単なミッションでしたよ。


そういうと眉はひそめたまま口角を上げた。




「怪我がなくてよかった」




柔らかく微笑んで無事を喜んでくれる。


この人は総務部、タークスでも人間扱いしてくれる。表向きはボディーガードとか、兵士のスカウトマンになっているが、実際は工作員。
邪魔者の排除、暗殺、恫喝、脅迫。
汚い仕事はお任せ課だ。


社員の上層部ならみんな間違いなく知っているし、何より面子の半数がいかつい。
知っていなくてもやばいのなんか見たら解る。









「統括、ありがとうございます」
「・・・いいえ」








苦笑して、首を振る。





「煙草、吸わないんですか?」
「吸わない人の前で吸いません」





吸わない人間からしたら嫌悪感しかないだろう。




「じゃあ1本ください」
「いや、無理に・・・」
「若いころ、悪ぶってた時もあったんですよ」
「・・・どうぞ。メンソールですけど」
「構いません」





煙草の蓋を開けて1本差し出す。
統括はフィルターを掴んで煙草を引き抜いた。


自分も一本抜いて、統括が口に咥えたので火を付ける。




「ありがとう」
「いいえ」




統括の煙草に火がついたので、自分の煙草にも火をつける。




紫煙を吸い込んで肺に入れる。
そしてゆっくり吐いた。



一酸化炭素で脳がふわっとして、立ちくらみに似た感覚がする。
隣でも煙が吐かれた。


煙草を持つ手つきが、吸い方が昔吸ってたのを証明してる。
どうやら昔悪ぶってた時があったのは本当のようだ。



でも、すぐむせた。






「久々に吸うと、いけませんね。
なかなか難しい」




ごほごほとむせている統括を横目に一口吸って、灰皿に灰を落す。





「で――――」





ですね、と言う言葉はむせこんで言えなかった。
自分のまだ真新しい煙草を灰皿に投げて、統括の煙草をもぎ取った。






「ビジュアル的には似合いますが、今の統括にはコレは必要ないものですよ」





統括の煙草に口をつけて紫煙を吸い込む。肺に入れないで煙を吐いた。




苦い煙草の味と、メンソールの味がして
















統括が煙草を灰皿に投げ込んだ。















そして甘い、ミルク入りのコーヒーの味がした。






「まっず」






口の中に変な苦味とコーヒーの甘さが混ざって広がって最悪の味になった。

だのに

不味いと言っているのに、また甘ったるいコーヒーの味を植えつけてくる。






「・・・煙草をやめると甘いものが美味しく感じれるんですよ」


「じゃあこのブラックでいいです」


統括の口を手で押しのけて、ブラックコーヒーを流し込む。

煙草に合うのはコレが一番だ。






「でも、コーヒーでリセットした後なら話は別でしょ?」




また甘ったるいの味がした。
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