SS(本)

□メモ小話まとめ
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♯9 育成ゲームとウイトリ

「お。お前らがそんな熱心にゲームしてるなんて珍しくね?何?どんなゲーム?」
「フフッ、これ今すごく流行ってるアイドル育成ゲームなんですよ」
「ア、アイドルっ!?育成っ!?」
「東江が開発して俺らも監修したんだよな」
「監修っ?!」

それは、別に知りたくもなかった二人の新しい一面。
蒼葉がぽかんと口を開けたまま二人を見つめる。

「ほら見てー。蒼葉そっくりに作った俺のあおばー。可愛くね?」
「俺のアオバのが蒼葉さんに似てるし可愛いですよ」

二人が差し出してきたコイルの画面に映っているのは、確かに自分に似ている風な長髪蒼髪のキャラだった。
自分好みのキャラを作れるというのが、このゲームの醍醐味らしい。
しかしどう見てもそれは女子。まぁアイドルだから当然なのかもしれないけれど。
トリップの「あおば」はロリ顔なのにナイスバディ。
ウイルスの「アオバ」はクールビューティ顔にスレンダー。
それを見た蒼葉がはぁっと疲れた溜息を吐いた。

「…お前らってホントわかりやすいな」
「そ?」
「そうですか?」
「つか、何かこれステータスめちゃくちゃ低くね?」
「これでいいんですよ」
「そ。俺らはあおばの裏ルート狙ってるから」
「裏ルート?」

蒼葉が首を傾げると、ウイルスとトリップがにんまりと怪しげな笑みを浮かべた。

「こうやってあおばを落ちこぼれアイドルにすると…」
「アイドルに絶望したアオバがAV女優に転職するという楽しい裏ルートがあるんです」
「可哀想で可愛い俺のあおば、楽しみ」
「夢破れて絶望しながら肌を晒すアオバさん、なんてすごく燃えるでしょう?」
「ゲ、ゲームなのに変にリアルな演出するんじゃねええええ!お前らホント最悪っ!」

そう叫んで、蒼葉が思わず二人のコイルの電源を落とす。
いくらゲーム内とはいえ、自分の分身がそんなの可哀想だろうが!
しかし、にんまりと笑ったままの二人に見つめられて蒼葉は気が付いた。
ああ、余計なことをやっちまった。

「まだセーブしてなかったのに」
「いいとこで消してくれちゃいましたね、蒼葉さん」
「いやっ、だからそれは…っ」

ジリジリと二人に距離を詰められる。
そのまま、逃げようとした両腕を二人にガッチリと掴まれた。

「まずはこっちの蒼葉の育成のが先だな」
「落ちこぼれて裏ルートにいかないようにがんばりましょうね、蒼葉さん」
「う、裏ルートってなんだあああああ!」

そう叫ぶ蒼葉は転がされた先は、いつもの育成ステージ、ベッドの上だった。




♯10 ヤミ金パラレル

「蒼葉さん」
「やっほー。蒼葉」

大学へ続く道を歩いている途中、掛けられた声に蒼葉が振り向く。
そこには、高そうなスーツを着込んだ明らかに場違いな二人組。

「ようお前ら。なに?今日も今から取り立て?」
「はいっ。先日夜逃げした馬鹿の行き先がわかりましたので」
「ちょっと脅しにね」

彼らは、所謂金貸しだ。
しかも悪徳な高利子を押し付ける、闇金融。
けれど彼らがそんな職に就く前からの知り合いである蒼葉は、彼らがこうなってからも以前と変わりないように接していた。
周りから危ないから付き合いを止めろと言われようが、彼らは蒼葉にとっていつだって、ウイルスとトリップというただの友達なのだ。

「脅しってなぁ…お前ら、あんまり人の恨み買うようなことはすんなよ?」
「ご忠告ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。俺達は必要としている人達にお金を貸しているだけの、ただの金貸しですから」
「そー。そんで、貸したもんはちゃんと返してもらわねぇとな。お礼と一緒に」
「お礼って…」

その膨大なお礼である利子が問題なのだと思うが、素人の自分があまり首を突っ込む問題でもない。
そう思って唇を閉ざした蒼葉に、ウイルスが変わらず軽快に話かけてくる。

「蒼葉さんは?これから大学ですか?」
「そ。めんどくせーけど」
「じゃあ辞めたくなったら、いつでも俺達に言ってくださいね」
「蒼葉なら歓迎ー。一緒に取り立てしよーぜー」
「アホ」
「あと、学生ローンなんかもありますので、入用の時には」
「蒼葉ならサービスするよ」
「アホっ!」

こうしていつものように他愛無い話をしてから、二人は蒼葉の背中を見送った。
次はいつ蒼葉と会えるのか、なんて話をしながら夜逃げした男の首をトリップが締め上げている最中、ウイルスの携帯が鳴る。
面倒くさそうにディスプレイを見たウイルスの表情が、まるで別人のようにぱぁっと明るくなった。

「もしもし。蒼葉さん?」
『………ウイルス?』
「ハイ。どうかしました?蒼葉さん」
『…………』

蒼葉の声に、いつもの明るさはなかった。
重い沈黙。ウイルスが全てを悟る。

「お金の、話ですか?」
『っ、』
「大丈夫、俺達は蒼葉さんの味方です。…いつだって」

それから一言二言話をして、電話は切れた。
電話を懐にしまいながら、ウイルスの表情がみるみる緩んでいく。
我慢しきれないといった風に。

「蒼葉なんだってー?」
「フフッ、金借りたいんだってさ、俺達に。あの蒼葉さんが」
「詐欺にでもあった?」
「保証人。逃げられて被せられたんだよ」
「あー。ハハっ、蒼葉らしいな」
「蒼葉さん、信じてた友達に裏切られた上に数千万の借金被せられて…電話越しで今にも泣きそうだったよ。蒼葉さんのあんな声、初めて聞いた」
「ウイルス、うっとりしすぎキモ。でもいいなー、俺も可哀想な蒼葉の声聴きたい」
「ホントに、可哀想で間抜けな可愛い蒼葉さん。ああ、今すぐ慰めてあげたい」

更ににうっとりと盛り上がるウイルスを尻目に、いつの間にか気を失ってしまっていた男の首からトリップが手を離した。

「じゃあ蒼葉のためにすぐ金用意してやんねーとな」
「ああ。最優先で」

ドサリと落ちた男から零れた財布の中身を漁りながら、二人が楽しげに笑う。
これからのことを想ったら、テンションは上がるばかりだった。

「そんで、なーんも出なくなるまで搾り取って取り立てねぇと。蒼葉」
「ああ。俺達が全部奪い尽くしてあげないとね」
「蒼葉になーんもなくなったら、蒼葉は俺達のもん?」
「もちろん。払えないなら担保を貰わないと」
「ハハ、体で払うってやつだ」

財布の中には、ぱんぱんに詰められた札束。
空になった財布を投げ捨て、その金をひらひらと揺らしながら二人は男の前から去っていく。

「ラッキーだったな」
「ね。サイコー」

札束を眺めながら、頭では違うものを想って。

「借りたものはきちんと返さないと。ね?蒼葉さんも」
「蒼葉には特別サービス。お礼は、蒼葉自身でいいよ」

俺達って優しいな。優しいね。
だって、ただの金貸しですから。
声と足を弾ませながら、男達は住むべき闇へ帰っていった。





♯11 三人の食卓において

「「「いただきまーす」」」

三人のいつもの食卓。
けれど最近、ウイルスは妙な疎外感を覚えていた。

「おいトリップ。また口元に付いてるじゃねーか」
「あー」
「皿の上もぐちゃぐちゃだし…もー、俺が切り分けてやるよ」
「わーい。蒼葉あーん」
「調子乗んなよなー」
「…………。」

それで結局、せっせとトリップの皿の上のものを切り分けては言われるままそれをトリップの口元へ運んでいく蒼葉を、ウイルスが眺めている。
それは面白くなさそうに。
最近、気付けばずっとこうだ。蒼葉が甲斐甲斐しくトリップの世話をしているのだ。
しかも文句を言う割りに自ら乗り気な感じで。

わかっている。きっとあれなのだ。
蒼葉の中のお兄ちゃんぶりたい、世話焼きしたいという気持ちを、トリップが大いにくすぐるんだろう。
まぁ、トリップはいわゆる大型犬属性で天然系だし、蒼葉の心をくすぐるのはわかる。
ついつい世話を焼きたくなる気持ちはわかる。

でもね、その横で虚しく一人で食事をしてる俺の気持ちは考えたことはあるんですか蒼葉さん!
ねぇないでしょう?俺今すごく寂しいんですよ蒼葉さん!気付いてますか?!俺ここにいますけど!
ウイルスの心中は、まさしくそんな感じだった。
この半端ない疎外感に加えてトリップに対する嫉妬、どうすればいいんだ。

(こうなったら仕方ない)

我慢の限界を迎えたウイルスは、ついに最終手段をとった。
その名も、わざと口元を汚して蒼葉さんの注意を奪う!
窮地に追い込まれたウイルスには、こんな幼稚な方法しか残っていなかったのだ!

「ん?ウイルスお前…」
(きた!)
「アハハハハ!お前まで口元に付いてんぞ!まっぬけー」

蒼葉が笑った。
それはおかしそうに笑った。可愛い顔で。
うん、ただそれだけだった。

「蒼葉さ…」

まだ笑っている蒼葉を呆然と眺めるウイルスと無表情なトリップの目が合う。
次の瞬間、トリップも笑った。ニヤニヤと。
そして何を思ったのか、ウイルスがしたようにトリップもわざと自分の口元を汚したのだった。
蒼葉の裾をツンツンと引っ張っり、あおばーといつもの調子で呼ぶ。いや、ちょっと甘えたな声で。

「あー、また口に付いてんじゃねーかトリップ!お前はホントにもうっ」
「んー」

蒼葉が笑う。
また甲斐甲斐しくトリップの口元を拭ってやりながら。
蒼葉には見えないように、トリップがウイルスに向かって勝ち誇ったように笑みとピースサインを向けてくる。
ブチン。
ウイルスの中で何かが弾ける音がした。

「一体なんなんですかこの理不尽っ!!蒼葉さんっ!俺はなりたくてこのインテリ眼鏡キャラになったわけじゃないんですよっ!?」
「ちょ、ど、どどどーしたウイルスっ!」
「俺だってねぇ、説明係なんかじゃなくて相槌だけうって蒼葉さんの誕生日にだけ本気だしてベラベラ喋るような天然っぽいキャラになれるもんならなりたいんですよ!でも二人ともそれじゃ話が成立しないでしょ!?ねっ!?」
「お、おう…っ」
「だからどーして!トリップの口は拭って俺の口元は拭ってくれないんですかって話なんですよ!蒼葉さんはバカっ!俺が眼鏡だからですかっ!?」
「いや、ちょ、まじ落ち着けウイルス!拭う!拭うから!眼鏡関係ねぇから!」
「…な?ウイルスって可愛い奴だろ?」
「余計ややこしくなるから自然に入ってくんなお前はーー!」

こうして三人の食卓ではしばらくの間、わざと口元を汚して蒼葉を取り合うブームが起こったという。
そしてぶち切れた蒼葉が二人に対して何のアクションも起こさなくなったは言わずもながである。
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