SS(本)

□メモ小話まとめ
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♯12 バカップルウイ蒼


(今日中に仕事終わらせないと)

重く溜息を吐き、ウイルスはソファーに腰掛けてパソコンを開いた。
すぐに、蒼葉の声が背後から聞こえてくる。

「お。何?めずらしーな。残業?」
「はい。今日中にやらないといけないので…構ってあげられなくてすみません。蒼葉さん」
「へーぇ?」

ウイルスは気付かなかった、蒼葉の声が楽しげに弾んでいたことに。
すぐにカタカタと高速でキーボードを打ち始めたウイルスの指が、その直後ピタリと止まる。

「………蒼葉さん?」

自分とパソコンの間。画面を遮る様に。
膝の間からにょきっと蒼葉が生えてきたのだから仕方ない。
その顔は、実に楽しげな笑みをニヤニヤと作っている。

「なぁ、もしかして俺邪魔?今すげー邪魔?パソコン見れなくてウイルスむかついてる?」
「………。」

ウイルスはすぐに理解した。
蒼葉が、自分の邪魔をしたいのだと。
正直邪魔どころか、こんな子供みたいなことをしたり顔でやってくる蒼葉が可愛くて仕方ない。
本当はキスのひとつでもして邪魔な訳ないじゃないですか。と言ってやりたい。
けれど、それではダメなことも理解している。
それをしたらきっと、面白くないと蒼葉はすぐにこの茶番をやめてしまうだろう。
ウイルスは叩いた。己の頭のキーボードを。

「…どちらかというと、邪魔ですかね」
「ハハッ、俺邪魔なんだ?もしかしてすっげーうざい?ざまーみろウイルス!」

いつもの仕返し。退いてなんてやんねーから!と蒼葉がフフンと腕を組む。
ウイルスの思った通りに。
けれどそんな蒼葉が本格的に愛おしくなってきて、この衝動を抑えることが今度は大変になってくる。
それを懸命に堪えて、ウイルスはパソコンのキーボードを叩くふりを続けた。適当に。もはや、仕事などどうでもよかった。
けれどウイルスの計算上、ここは仕事をしているフリを続けなければいけない場面なのだ。

「おい、これでちゃんとやれてんのかー?」

そんなウイルスに不服そうに、蒼葉が腕を組んだままパソコンとウイルスを交互に眺めて唇を尖らせる。
ああ可愛い。出来ることなら今すぐその唇ごと食べてやりたい。
けれどウイルスは至極冷静に、がんばってますよ。とだけ応えた。
蒼葉の顔が面白くなさそうに表情を変える。
まずい、もしかしたら計算を外したのかもしれないとウイルスが思ったのも束の間、蒼葉はパソコンとウイルスの間から抜け出し、今度はウイルスの膝の上に頭を置いてごろんと寝転がった。

「なーこれも邪魔ー?すっげー重い?」
「はい。ベッドで寝た方がいいと思いますよ蒼葉さん」

もちろんそんなこと思っていない。
計算した上での模範的な回答だ。

「バーカ。お前の邪魔してぇのにそう言われて行く訳ねぇだろ。ここで寝てやる。ざまーみろ!」

いつもの仕返しだからな。
と、上機嫌に蒼葉が頭の裏で手を組み、そのまま瞼を落とした。
ウイルスの膝を枕にして。
蒼葉の視界が遮断されてすぐ、ウイルスの表情がみるみる緩んでいく。

(本当に単純で可愛い蒼葉さん)

どんなことをしたって、自分が蒼葉を邪魔だなんて思うはずがないのに。
この世に蒼葉より優先するものなんて、あるはずがないのに。

「ご褒美、ありがとうございます蒼葉さん」

こんなこと聴かれたら、蒼葉はすぐにここから去ってしまうんだろう。
自分の膝を枕にしたまますぅすぅと寝息を立て始めた蒼葉の髪を柔く撫でながら、ウイルスはそっと呟いた。
その後もずっと蒼葉の寝顔を見続けてしまい、結局仕事が終わらなかったのは言うまでもない。

「ハハッ!まじで仕事間に合わなかったのかよ!ざまーみろウイルス!」

腹を抱えて笑う蒼葉を見つめながら、せめて仕事はきちんと終わらすべきだったとウイルスは後悔していた。
蒼葉のことだ。
次に仕事に追われることがあっても、もう絶対に昨日のように邪魔はしてこないだろう。
一度だけならまだしも、二度も人に迷惑をかけることを蒼葉は好まない。
現に今、悪かったなと小さな声で謝られた。

(蒼葉さんは本当に、優しい人ですから)

ああ、俺としたことがとんだミスをした。
でもこれも、計算を覆す程に可愛い蒼葉の寝顔がいけなかったのだと。

「また邪魔してくれたら、今度は頑張れそうな気がします」
「…おい、ホントは全然邪魔になんかなってなかったんじゃねーだろな」

計算して叩き出した答えを口にして、僅かな可能性にかけるのだった。

(蒼葉さんは、優しい人ですから。)





♯13 ウイトリと赤ちゃんプレイ

「あおばー、赤ちゃんプレイしよ」
「はぁっ?…何言ってんのお前。する訳ねーだろ」
「ママー、おなかすいたでちゅー」
「気持ちわりぃ!やめろバカ…ってまじで何してんだバカッ!」

蒼葉が焦った声を出したのも無理はない。
トリップがいきなりシャツをたくし上げて腹の辺りに唇を落としてきたからだ。

「俺赤ちゃんだから、蒼葉のおっぱい欲しい」
「ば…っ!」

バカだ。コイツバカだ!
しかしトリップの唇は止まることなく、すぐに蒼葉の胸まで上がってくる。
そのまま、ちろちろと舌先で乳首を舐められた。

「ん…っ!」

そんなことされたら思わず声が出てしまう。
これ以上はまずいと逃げようとした体をトリップにガッチリと掴まれ、今度はちゅうっと乳首を吸われた。
本当に赤子がするみたいに、ちゅぱちゅぱと音を立てて何度も吸い上げてくる。

「ふ、ぁ…っ、や、めろ、って…」
「あおばーなんも出ねー」
「ったりまえ、だろ…っ!」

それでもトリップは蒼葉から離れない。
今度はカリカリと乳首に甘く歯を立てながら、もう片方へも指を伸ばす。
触ってもいないのに既に硬くなっているそれをピンッと指で弾くと、それに合わせて蒼葉も震えた。

「蒼葉ー、ママなのにダメじゃん」
「う…っせ…っ」

ペロペロと乳首を舐められながら、クリクリと指で乳首を潰される。
赤ちゃんがこんなやらしい触り方するもんか!
というかこんなデカイ赤ちゃんがいてたまるものか!
蒼葉が声を堪えるように唇を噛み締めて真っ赤になる。

「ココ、こんなにしちゃ」

蒼葉の下着を撫でながら、トリップが楽しげに笑った。
熱く湿っている、その場所。
さてこれからどうやって遊んでやろう。
と、己の唇をペロリと舐めたトリップだったがその動きはすぐ止まった。

「そーですよ蒼葉さん。おもらしはいけませんでちゅ」
「っ!?」

もうひとつの声。
蒼葉がぎょっとした表情を浮かべて、トリップが残念そうにあーと呟く。
そこには、何故か紙おむつを手にしたウイルスがいた。

「俺はどちらかというと、蒼葉さんが赤ちゃん設定のプレイの方が好きですので」
「えー。俺は蒼葉の赤ちゃんになりてー」
「知るかーー!お前らホント最悪っ!」




♯14 蒼葉捕獲後

「蒼葉さん殴ってみて、どうだった?」
「うん。すごい楽しかった。正直、興奮した」

ボロボロの蒼葉をベッドにそっと寝かして、二人がじっとその顔を見つめる。
蒼葉を傷つけたその指で、トリップが蒼葉の頬を優しく撫でた。
自分が付けた、傷の痕を。

「酷いこと言うな」
「ウイルスがやれって言ったくせに」
「怯えてる蒼葉さん、可愛かったよ」

ウイルスの指も撫でる。
ぐちゃぐちゃに乱れた蒼葉の髪を整えるように柔く。

「これからどうすんの?」
「蒼葉さんを初めて見つけた時と同じ。跡形もなく、綺麗に隠してあげないとね」

何もなかったように。完璧に。
蒼葉という存在をまた消し去らなくてはいけない。
自分達以外から。

「めんどくせーね」
「めんどくさいよ」

基本的には、楽で楽しいことしかしたくない。
蒼葉の存在を隠すのは、中々に労力を費やすことだ。
以前蒼葉の記憶を改竄した時のことを思い出す。
蒼葉の頬を手の甲でスリスリと撫でながら、トリップが小さく息を吐いた。

「でも」

間を裂くように、ウイルスの声が楽しげに揺らぐ。

「それ以上に楽しかっただろ?あの時も、これからもね」
「そーね。蒼葉にはそれだけの価値あるし」

ウイルスが何処からか救急箱を持ち出し、消毒液を浸したカット綿をピンセットで摘んで蒼葉の顔へ運ぶ。
それを見たトリップが絆創膏をペリペリと剥き始めた。

「蒼葉さんを見つけた時のこと、思い出すな」
「ああ、あれは強烈だった。眼に焼き付いて離れなかったよな、slyblue」
「一発でファンになったからね、蒼葉さんの」
「そ。ヒトメボレ。これからだって、本当はただのファンでいるつもりだったのにね」

ウイルスが消毒を終えた部分に、トリップが絆創膏を貼っていく。
それを全ての傷跡に施して、二人は満足げに笑った。

「フフッ。でも蒼葉さん自ら落ちてきたんだから、仕方ないよな」
「捕まえてくれって、蒼葉に言われちゃったらね」

自分達のものにする以外に、選択肢などあるものか。
こんな幸運、あるものか。
二人の笑みが変わる。
治療用具を置いたその手に、今度は様々な拘束具を手にして。

「俺達、そんなに普段の行いよかった?」
「よかっただろ。神様のお世話、させてもらってたし」
「ああ。だから神様の片割れ、もらえたのかな」
「フフ、そうかもしれないな」

楽しそうに、嬉しそうに。
蒼葉の傷を癒すような優しい手付きで。
ウイルスとトリップは、蒼葉の体中に拘束具を取り付けた。
全ての自由を、奪うように。

「これからも大切にしないとね」
「俺達だけの神様」



♯15 ピアスとウイトリ


「お前らって、付き合ってんの?」
「……ハイ?」
「お前らって誰」

蒼葉の急な問いかけに、二人は珍しく蒼葉の前で真顔になった。

「いや、お前ら二人に決まってんだろ。ウイルスとトリップは、もしかして付き合ってんのかって聞いてんの」

少しばつが悪そうに、蒼葉がチラチラとこちらに視線を寄越してくる。
ようやく蒼葉の質問の真意が解って、二人に訪れたのは沈黙。
けれどすぐに、茶を濁すようにウイルスがいつもよりはしゃいだ声を出した。

「フフ、蒼葉さんもそんな冗談言ったりするんですね」
「あんま面白くねぇ冗談だけどな」
「こらトリップ」
「いや、だってお前ら双子でもねぇのに服は似たような感じだし…ピアスに至ってはおそろいだろ?何か意味あるのかと思って」

それは蒼葉の中で、カップルがするペアリングとかそういう類の意味を指しているのだろうか。
実に勘弁して欲しい。今の今まで蒼葉にそう思われていかもしれないなんて、屈辱に近い。
二人は初めて、心の底からこの揃いのピアスを外したいと思った。

「これに意味なんてないですよ。全く」
「そ。趣味が似てるっつーか、ウイルスが真似してるだけ」
「いや、お前だろ」
「そうだっけー?」

普段と何ら変わらない様子の二人。
それに、蒼葉が少しほっとした表情を浮かべて小さく笑う。

「なら、いいんだけどさ」

でもその蒼葉の表情は、まだどこか煮え切らない。
何かを隠している。
ウイルスとトリップには、わかる。

「フフ、まだ何か言いたげですね?蒼葉さん」
「なになにー?言ってみ蒼葉ー」

蒼葉がまた、チラリと二人を見る。
けれどすぐに視線を外し、俯いてしまう。
二人は静かに待った。蒼葉の唇がゆっくりと開かれるのを。

「いや……お前らがそういう関係だったとしてもさ、俺は結構理解あるつもりっつか、変わらずダチっつーか…」

ああ、蒼葉の本当の真意はそれだったのか。
全てを理解したウイルスとトリップは、目を合わせてからおかしそうに笑った。
蒼葉が恥ずかしそうに頬を少し上気させ、それに不満げに唇を尖らせる。

「んだよ。笑うなっつの!」
「いえ、蒼葉さんは本当にお優しいんだなと思って」
「大丈夫だよ蒼葉。俺達、まじでそんなんじゃねーから」
「はい。コイツと付き合う位なら死にます」
「いや、さすがにそれはちょっと酷くね?」
「ハハっ…お前らってほんっと仲いいな」
「「どこが?」」
「そゆとこ」


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「じゃ、またなお前ら」
「はい。蒼葉さん、また」
「ばいばーい、蒼葉」

蒼葉の姿が見えなくなるまで、二人は小さくなっていくその背中を見つめていた。
手を振りながら。口元に笑みを浮かべながら。

「今日はいいこと聞けたな」
「蒼葉、理解あるんだってさ」

同性間の、恋愛感情。
自分達の蒼葉に対するこれが恋愛感情であるとはいい難いが、それに近い何かであることは確かだ。
それへの理解を得られたなんて、こんなに喜ばしいことはないだろう。

「本当の俺達も、理解してくれるかな?蒼葉」
「さすがにそれはまだ早いだろ」

自分達でさえも持て余してしまいそうなこの感情。
蒼葉に暴露するにはまだ早い。
機が熟すまで、ゆっくり待たないと。
けれど、いつか来るはずであろうその時のことを思うと、自然と帰路を行く足が弾んでしまう。

「まずはとりあえず。蒼葉さんにもプレゼントするか、このピアス」
「いいねー。でも穴開けてくんねぇだろうな、蒼葉」
「いいじゃないか。穴を開けるのは俺達の役目だし」
「あー。それやべぇ。興奮してきた。……なー、俺やっぱ蒼葉欲しいウイルスー」
「それは俺も全く同意見だが……くっつくな。お前が簡単にこういうことするから蒼葉さんに気持ち悪い誤解されるんだよ」
「あー…思い出してテンション下がった。気持ち悪いよね」
「それが顔近付けてきて言うセリフか、ばか」

このままキスでもしそうな至近距離で、二人はまた目を合わせて笑った。




長々とお付き合いありがとうございました!
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