赤い糸
□邂逅
1ページ/5ページ
「神様、どうか私に仕事をください!」
黄昏時、人気のない神社。
私の悲痛なお願い事に応えてくれたのは、お社の両脇に植わった木々のざわめきだけだった。
「…余計虚しくなっちゃった」
キャンパスライフも終盤を迎え、私もめでたく就活生。
けれど、この就職難の中、私を雇ってくれる会社は簡単に見つからない。
面接の帰り道、偶然見つけた神社へ藁にもすがる思いで立ち寄ったんだけど…
我ながら情けないなぁ。
あーあ。
こんな事なら、今までもう少し頑張っておけば良かった。
もっと有名な大学に入るとか、せめて大学で良い成績を取っておくとか。
そしたら、今頃……
なんて、考えていても仕方ないよね。
ふと辺りを見渡すと、茜色の空がすっかり景色を濃く染めていた。
少し背筋の寒くなるような、赤色の世界。
逢魔が時の、光景。
「…冷えてきたかも」
身体がぶるりと震える。
最後にもう一度、ちゃんとお願いして帰ろう。
"仕事をください"じゃなくて、こういう時は────
お社に向き直り、ガランガランと鐘を鳴らす。
二礼二拍手、そして目を閉じて。
「素敵なご縁に導かれますように」
一礼。
こういう時は、縁結びのお願い事。
人事を尽くして、天命を待つ。
頑張って就活していれば、きっと良い所に巡り会えるはず。
そう信じて、私はお社に背を向けた。
そして鳥居をくぐり、メールを確認しようとスマホの画面を開く。
「…ん?」
画面の左上に『圏外』の文字。
こんな都会で圏外なんて…ビルの陰か何かの理由で難受信地帯になっているのかな。
とりあえず元来た道を辿るように歩きながら、携帯を空に翳してみたり、通信の設定を弄ってみたり。
だけど、一向にアンテナが立つ気配はない。
「暫く放っておくかぁ」
諦めて顔を上げる。
……あれ?
こんな道、通ったっけ。
っていうか。
携帯に夢中で気付かなかったけど…
ここ、どこ────?
.