夜鷹の恩返し

□二十六夜
1ページ/1ページ

あの日から自分は掃除の合間合間に、石の選んだ本を読み漁った。石は掃除の途中でも構わず、目的の本を見つけると光ったり、熱くなったり、異臭を発したりととにかく自分の仕事を妨害した。だから、自分は石と取り決めをした。

いいかい。確かに君が選んでくれる本はとても分かりやすいし、神様であられるときの月読様についてよく描写されている。だけど、自分には月読様から授かった仕事がある。だから、時間を決めよう。自分は月が一番高いところにくるまで仕事をする。君はその時を自分に知らせる。その後は自分に読ませたい本があれば光ればいいし、熱くなってもいい。良いかな。

月読様から頂いた石に対して、無礼に感じたが、このままでは月読様から授かった仕事に差し障りが出ると判断したからだ。石は簡単にこの提案をのんでくれたようで、次の日から石による月読様の講義がはじまった。

そこで伝えられる月読様は、どれも神様であられるときの月読様の記述で、ここに来てからの月読様とは少しずれているように感じた。でも、そのどれもが人間味があり、感情豊かで、非情な月読様という天照様のイメージとはかけ離れていた。

その日の夜。月読様がお部屋に戻られてから、自分は石を握り込んで窓の外を眺めていた。

神様であられるときの月読様も冷酷な方ではないように感じます。確かに、暴走されるときも多々見受けられますが、それはそれで人間味があって大変快く感じます。そんな方の右目を奪うなどして良いことでしょうか?

握り込んでいた石がいっきに発熱する。慌てて、手を離す。

良くないんだ。石はそう判断している。

再び、石を掴んで念じる。

どうしたら月読様にとって良い形で収まるのでしょうか?このままでは、月読様はずっとここに囚われたままになってしまいます。

石はしばらく考えたかのように、まるで動かなかった。突然動いたかと思うと、今までにない力で本棚へと引っ張っていった。そしていつもと同じように目当ての本が見つかると眩い光を発した。

この頃になって、月読様からいただいたこの石は、白銅鏡の一部であることが分かっていた。

なるほど、これなら神様であられるときの月読様を一時的でも封じられる。

そう確信したときには、すでに日が沈む時刻だった。後4日で準備を整える必要がある。これから行う自分の行動を思うと発狂しそうになる。天照様を欺き、月読様を欺き、神様と対峙しなければならない。月読様の鳴らされる鈴の音にいつもの場所へと戻る。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ