夜鷹の恩返し

□下弦の月
1ページ/1ページ

今日は朝から天照様が御出でになっていた。天照様は部屋にお入りになられると、すぐに奥の部屋へ入られた。それから、自分は掃除をしていた。不意に鈴の音が聞こえた。すぐにいつもの場所へ戻ると、天照様だけがその場所に佇んでおられた。

視界にいれれば、炭にされる。

以前の言葉にフードを目深にかぶり直し、視線を足元に落とす。

「いい心掛けだな。だが、無用だ。我が愚弟が勝手にこの部屋へ術をかけたらしいからな。」

頭に直接響く声に恐怖を感じる。

「まあいい。そのままで聴け。お前に頼みがある。」

頼み?

「もちろん、お前に断る権利はない。断れば近々死ぬことになる。まあ、引き受けたところで、失敗すれば死ぬのだがな。」

死ぬ?

「ここから消えるということだ。元の輪廻に戻るのだから正常と言えるかもな。」

自分は月読様の配下でございます。

「ふん、違う。お前は私の配下だ。月読が選び、私がここに呼んだ。お前を星の子にしたのは私だ。」

なんだか、全身が震えるのを感じた。自分は月読様に対してとんでもない裏切りを犯している。

「別に私はお前など要らん。お前が今回の任務をこなせば、お前を改めて月読の配下としてやる。」

どのような任務でございますか?油断してはならない、この方は月読様をここに閉じ込めている方だ。

「そう固くなるな。任務は単純だ。月読の呪いを解け。」

呪い?

「そうだ。月読にはもともと二面性がある。月の番人とする顔と夜を治める神の顔だ。月の番人であるときの月読は極めて穏やかだ。だが、神であるときの月読は凶暴だ。私は愚弟共の暴挙を止めるほどの力はない。月読が暴れれば、止まるまでただ見ているしかないのだ。」

呪いとはどういうことでしょうか?

「お前は月読の神であるところを封じれば良い。時期は7日後の晦の晩と新月の晩だ。方法は月読の右目を狙え。」

右目を狙う。あんまりだ。出来るだろうか?

「やるのだ。」

やけにはっきりと聴こえた天照様のお声に、縮み上がって首から下げた石を握り込む。

「これは月読のためでもある。もし、お前が神である月読を封じることに成功すれば、月読はこの屋敷から自由にしてやることができる。何か必要なものがあるなら用意をしよう。」

そう、仰られても…

「そうか、お前はなかなか賢いやつだな。確かに、お前には月読に関する知識は乏しい。しかし、私も講義してやる時間はない。では、お前に文字の読み方を伝えてやろう。こっちへ」

天照様のお声に反応するように、握り込んだ石が天照様の方へ引っ張られる。天照様はフードを剥ぐと、ご自分の頭に手を当てられてから、自分の頭に手を当てられた。それと同時に、あらゆる文字に対する知識が入ってきた。あまりの情報量に足元が覚束なくなり、床に倒れこんでしまった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ