夜鷹の恩返し

□満月
1ページ/1ページ

とりあえず、部屋の隅から掃除を始めることにした。掃除道具はいくつか落ちていたので、ほうきとちりとりを選ぶ。

どのくらい掃除していたのか分からない。とりあえず、空腹を感じる程度には時間が経っていた。しかし、扉はどこだろう?ずいぶんと広い部屋で、迷子になってしまった。情けない。

"リン"

鈴の音がする。不思議と鈴の音を追いかけても、音が大きくなることも、小さくなることもない。夢中で追いかけると、開けた場所に出た。最初にいた場所だった。ゆったりとしたソファーが足の低い机の両側に置かれ、扉と机を挟んで、対峙するように月読様の机が置かれていた。

"リン"

一際大きく聞こえた鈴の音に、ソファーに視線が移ると、白猫が優雅にくつろいでいた。白猫は薄く目蓋を開き、こちらを一瞥する。瞳には月読様と同じ煌びやかな星の輝きを持っていた。

一瞬見とれて、すぐに頭を床につける。あの白猫は月読様だ。

「気にするな。この部屋は広い。迷わぬように、この近辺から掃除すると良い。」
手を叩く音がして、カチャカチャと音がする。
「食事にしよう。こちらへ」
給仕のお手伝いをするのかと思い、月読様の後ろに立つ。
「何をしてる。そんな所に立って食事をされたら、こっちが落ち着かない。そっちのソファーに座れ」
困惑しながら、指示された通りに座る。
「よろしい。では、頂こう。」
大きな机には所狭しとあらゆる料理が並ぶ。たじたじになっていると、月読様は楽しげにこちらを眺め、それが旨いだとか、それがおすすめだとか次々に料理をご説明なさる。薦められるがまま、次々と料理に手を出していたら、次第に腹も膨らみ、うとうととしてきた。
「久々の誰かとの食事はやはり楽しいな…」
しみじみと仰るその言葉にどこか寂寥感を感じた。
「夜鷹は生きていた頃は狩をして、食事をしたのだろう?なかなか、動けるのか?」
昔の話はあまり好きではないが、月読様にご質問されたのであれば、答えなくてはなるまい。
音を発しない喉の代わりに首を縦に振る。
「それは良かった。この部屋は端に行くに従って、色々な仕掛けが施されている。今回は私が気が付いたから助けられたが、次もそうとは限らない。今回の仕掛けは、元の場所に戻れなくなるというものだったが、中にはかなり危険で直接的に死につながるような仕掛けもある。気をつけて掃除をして欲しい。」
さらに、首を縦に振る。
「もう、日もだいぶ登ったことだ。寝よう。」
月読様は奥の自室に再び戻られ、自分はソファーで寝るように指示された。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ