素直じゃないよね?

□あぽろじゃいず
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僕の目の前から、あっと言う間に消えた鎌谷君。連れて行かれた方向を、ボウと見ていると、一樹君が僕に詰め寄ってきた。
「鎌谷のことわざと倒しただろう!最低だな。」
一樹君は鎌谷君のすぐ後ろを走っていた。僕が鎌谷君を倒したように見えたのだろう。事実そうだったかもしれない。どうしたらいい?謝る?無理だ。口を開けば、憎たらしいことしか言えない。
何も言わない僕に、一樹君は痺れを切らして、襟刳りを掴む。一樹君は僕より背が低いから、僕は屈み込む姿勢になる。更に前後に揺すられる。つい、気分が悪くなり、口を開く。
「君に謝ってどうする?手を離してくれないかい?」
一樹君は、僕を後ろ側へ突き飛ばす。そして、僕に吐き捨てる。
「政治家の孫だからって、皆遠慮すると思ったら大間違いだからな!」
周りに集まってきた他のクラスメイト達もこの一言に囁き合う。"政治家""孫"その言葉が僕を薄暗い気持ちにさせる。確かに僕が悪かったかもしれないだけど、祖父は関係ないし、言い方が悪かったが一樹君に関係ないことも事実のはず…
「そんなことは期待してないよ。女形の落ちぶれ。」
一樹君の家は歌舞伎をやっていた。一樹君程の容姿で、こんな学校に送られるということは、舞えないのだろう。
案の定図星だったのか、一樹君は立ち上がって再び掴みかかろうとしたけど、僕も逃げる。すぐに先生が戻り、一樹君を取り押さえる。
体育終了を待たずに僕はすぐに着替えて、保険室へ向かう。保険室の先生はいなくて、奥のベッドだけカーテンが引かれてる。そっと、覗くと鎌谷君が、一定の寝息を立てて寝ていた。さっきよりは、顔色も大分良くなっていた。
一樹君との喧嘩を思い出す。祖父の名前を出されるのは、いつものこと。誉められる時も、叱られる時も、全部祖父のことが持ち出される。ふと、鎌谷君はどうなのかと、気になった。鎌谷君も、他の人達と同じで僕のことを、神宗一郎の孫として見ているのかな?それとも、気づいてない振りをしている可能性もある。もんもんと考え込んでいると、チャイムが鳴る。次の休み時間にまた…と立ち上がろうとして、ふと鎌谷君を見る。先程までの、安らかな寝顔とはうって変わり、とても苦しそうだった。
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