わたしとキセキとミラクルデイズ

□キセキとお泊り会A
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「さて、中学男児恒例行事、タンス荒らし開始すっか」
「なんでそうなるんですか」
「あ?女子の家に泊まるっつったらこれだろ?」
「やめるのだよ」
「青峰っち………見損なったっス」
「峰ちんさいてー」
「大輝……感心しないな。タンスを荒らす時は下の段からと決まってるだろ」
「赤司君……見損ないました」
「お、黒のブラはっけーん」
「なあ………っ!!い、いいい今すぐ戻すのだよ!!!」
「おいおい緑間ぁ………お前ほんっとウブだよなあ」
「こんな事に慣れても意味ないのだよ!黒子!お前からも言ってやれ!」
「僕色です」
「喜ぶんじゃないのだよ!!!」
「赤はあるか」
「あー………ねえなー。お、青みっけ」
「峰ちーん、紫はー?」
「んなエロいの付けねーだろ……っつーか、穂乃香って何カップだ」
「えーっと………あれ、タグ取ってあるっス」
「まじかよ………ったく、空気読めって」
「青峰君」
「あー……まじでどんぐらいだろ…」
「青峰っち」
「んだよ………ッ!?」


ばっと振り返ったと共に頭に走る衝撃。
眩む視界が、不意に暗くなる。


『青峰ー?なーにしてるのかなー?』


背筋も凍る声が脳裏に響き渡る。
おそるおそる顔を上げると、青峰の表情は強張った。


「ほ、穂乃香………」


視界のど真ん中を独占する彼女は顔こそ笑みを浮かべているものの、纏っている空気はそれとは似つかない物であった。
先程頭に走った衝撃は、片手に持つ麦茶が入ったペットボトルによるものか。
若干角がへこんでいる。


「ち、ちがう!!これはちがう!!」
『なにがちがうのかな?』
「これは、その!ちがう!俺だけじゃねえからな!あいつらも!」
『へえ、皆もしたの。ふーん。で、どうなの?』
「俺は知らないっス」
「は!?」
「僕も知りません」
「お、俺は止めたのだよ」
「俺なーんもしてねーし」
「大輝、はしゃぎすぎだ」


次々と発せられる裏切りの言葉に、青峰の額に汗が滲む。
帝光中学校バスケ部として共にコートに立つ仲間をあっさりと見捨てるほど、この現状が危険な物だと全員が感じ取ったのだ。
そして彼女の怒りは、自分一人だけに向けられている。

イコール、 や ら れ る

普段働かない頭でその答えにたどり着いた瞬間、青峰の顔から血の気が引いた。
がっしりと掴まれた肩は、信じられない程歪な音を出しながら軋む。
心なしか、「殺意」の二文字が穂乃香の後ろに見えた気がした瞬間、縋り付くように赤司の方へ顔を向けた。


「おい赤司!!てめえ一番ノリ気だっただろーが!!」
「は?それは何のことだいぱーどぅん?」
「てめえ覚えとけよ!」
『青峰、責任転換はよろしくないね』
「ちょ、引っ張んな!やめ、ちょ、悪かったって!まじで謝ってんだろ!」


ずるずる引きずられながら部屋を強制退出させられる青峰。
ばたん、と閉められるドアの音が、やたらと響いた。


「青峰君、大丈夫ですかね」
「テツヤ、時には犠牲というものが必要なんだよ」


そうですか、と納得の言葉を出すと共に、耳に入るのは断末魔。
ドアの向こうで行われている行為を思い浮かべながら、チームメイトの冥福を祈ることしかできなかった。





(青峰君、大丈夫ですか)
(これが大丈夫だと思うのか)
(いいえ、まったく)


――――to be continued


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