Parallel Lines

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何度思い返してみても、やはり引っ掛かる。
なぜ花宮は愛について何も話したがらないのか。なぜ会わせようとしないのだろうか。考えても答えなど出ず、ますます首を傾げる一方。相手があの花宮のため、尚更性質が悪い。
会わせてはまずい状況なのか。何か見せたくない物でもあったのか。まさか、愛に手を出したり―――まあ、あの様子じゃ、おそらくはしていないだろう。そう信じたい。
先程見た感じでは愛も元気そうだったし、大丈夫だろう。落ち込んでたようには見えたが…そこは俺が踏み込まない方がいい。


「そう言えば、」


さっき、愛に会ったぞ。
そう続けようとしたが、不意に過るのは愛の顔。
何かに怯えてるような、不安げな表情。それらが何を意味しているかは、俺には分からない。
ぎゅっと唇をつぐみ、改めて口を開いた。


「…傘、持ってきていないな。お前らしくない」
「………ああ、そうだな」


言わない方がいい。少なくとも、今は言うべきでない。
何となく、何の根拠もなくそう確信した俺は、依然として窓の外を眺めている花宮に一声かけ、まだ雫が滴り落ちる傘を片手に、その場を後にした。
エレベーターの中で思い返されるのは、やはり愛の顔。それだけに収まらず、次々と光景が蘇ってくる。
不安げな表情。その手にあった二本目の傘。別れた場所。そして、あの男。


「………………まさか、な」


思い浮かんだ一つの憶測に首を横に振る。
それは、それだけは、例え真実でも信じたくない。


「………外れていますように」


ぽつり、呟いた言葉は、ますます勢いを増す雨の音によって掻き消された。
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