Parallel Lines

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花宮に尋ねる人物は決して俺一人だけ、という訳でもなかった。
かつて霧崎の一軍としてバスケに励んでいた5人で飲みに行くのはそう珍しくもなく、大抵原のメールを合図に駅に集合。
酒を片手に近況報告などと題した世間話で盛り上がるのだが、そこで必ずしも出てくるのが愛の名前。やはり皆気にはなっているのだろう。


「ねえねえ、最近どう?」


一番新しいのでは、一か月程前だったか。
翌日は皆休みだというので、羽目を外して酔いに酔おうと馬鹿みたいに飲んでいた時だ。
それほど酒に強くないくせに飲みに飲んで悪酔いした原の一言から始まった。


「あ?……別に、変わりねえよ」
「変わりないって、前もそう言ってたじゃん」
「忘れた」
「花宮つめたーい」
「やめとけ原。花宮はそういう奴だ。愛も可哀想に…こんな男に捕まってよ……」
「あ、やっぱザキもそう思う?花宮、愛にもこんな冷たいんじゃないのー?」
「知るか」
「ほらやっぱり。駄目だよん、そんな事しちゃ」
「冷めるぞ、愛がよ」
「ぶふっ、ザキが愛とか!!くっせー!!きもちわりー!!」
「てめえちょっと表出ろや」
「やだーザキこわーい」


大人になっても変わらないのかこの二人は。ぎゃあぎゃあと騒ぐ原と山崎を余所に、ぐび、とグラスを傾ける花宮を見る。
酒が回っているのか、若干顔が赤い。しかしその表情は決して愉快そうではなかった。
同じことを思ったのか、瀬戸が切り出した。


「どうした、機嫌悪いな」
「…別に。普通だ」
「そうには見えないけど」
「本人がそう言ってんだ。普通だ」
「それならいいけど……愛と何かあったのか?」
「ねえよ。何もないくらいだ」
「えー、それはそれで問題じゃないー?」


山崎をからかうのに飽きたのか、原が核心を突く発言をかます。
花宮が何も言わない事を確認してから、原は再び口を開いた。


「何にもないって、本当に何にも?」
「そうだって言ってんだろ。しつこい」
「え、じゃあ、夜の営みとかは?」
「うるせえな、ねえよ」
「最後にシたのっていつ?」
「…………覚えてねえよ」
「…………………まさかとは思うけど、花宮、浮気してる?」
「する訳ねえだろ。まじでしつこい」
「なんなの、ほんとなんなの花宮!愛可哀想すぎるって!!」
「原、一回黙れ」


ふご、という音で原の声が収まる。そちらに視線をやれば、口をグラスで塞がれており、実に苦しそうな原の姿。ご愁傷様。
うるさかったものの、原の言うことはもっともだ。代弁してくれた事に感謝する。でなきゃ、俺があのような姿になっていただろう。


「まあ、花宮のことだ。浮気はしてないはず」
「だからそう言ってんだろ。ころすぞ」
「まあまあ。でも、ご無沙汰してるのは心配だわ」
「お前には関係ない」
「まあね。でも、もう結婚して一年だっけ、そろそろじゃなかった?」
「………ああ」
「愛、子供好きだったろ。そういうの考えると、やっぱ辛いんじゃない?愛も、お前も」


瀬戸の一言により、完全に黙り込む花宮。こんなに言われて言い返さないのはかなり珍しい。酒が回って大人しくなっているのもあるだろうが、余程、図星だったのだろう。
あまりの展開に皆が困惑する。気まずさに耐えかね、山崎が「そういやさ、」と切り出した。


「愛、久々に会いてえよな。全然見ねえし」
「あ、そうそう。結婚式以来ずーっと会ってないよね」
「今度花宮ん家乗り込もーぜ。愛も一緒に酒飲んでさ」
「駄目だ」


がん、っとグラスを叩き付ける音。飛び跳ねる肩の数々。


「え、どしたの、花宮」
「っるせえよ」
「お前、まじでどうかしたのか?なんでキレてんだよ」
「黙れ。来んじゃねえよ」


それから無言のまま、ただひたすらに飲み続ける花宮。
これ以上変に絡んでも状況をより悪化させるだけだと判断したのか、皆互いの顔を見合わせては首を傾げた。

結局、結婚式以来、俺達が愛に会うことは一度もなかった。
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