Parallel Lines

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日に日に花宮がやつれている事は、何となく分かっていた。


「今戻った」
「……おう」


花宮の中学の頃の先輩――今吉翔一と会った後、会社に戻って来た俺は預かってきた書類を花宮に手渡す。
それを無言で受け取ると中身の確認もそこそこ、デスクに置き、窓を打つ雨を眺めていた。
その目はじっとりと、何か恨んでいるような、機嫌が悪いだなんて言葉が可愛らしく聞こえるほど、生気を失っていた。死んだ魚の目と言われる俺が言っているほどだ。なかなかの物である。


「もう帰っていいぞ」
「ああ。………花宮はどうするんだ?」
「しばらく残る」
「そうか」


少し濡れたスーツの肩部分を気にしながら身支度を着々と進めていく。
そう言えば、いつからこんな風になっただろうか。2、3週間前…そのくらいだろうか。壁にかけられたカレンダーを横目に考える。
何か悩み事でもあるのだろうか。仕事について――ではないのは確実だろう。それでここまで追い詰められているなんて、花宮らしくない。

では、他に原因があるのだろうか。
そう考え出した時、真っ先に出てきたのは家庭についてだった。
改めて思えば、花宮から家庭について話されたことは数える程しかない。それも、こちらから切り出した時くらいだ。
高校の頃の同級生、そしてバスケ部のマネージャーとしてチームを支えていた愛については決して無関心という訳でもなく。
「最近愛はどうだ」くらいの質問をしたこともあるが、「普通」や「機嫌悪い」などといった返事は良い方。大抵は「知らね」の一言で済まされる。

そういうものなのか。独り身の俺には分からないが、その程度のものなのか、と最初は目を丸くした。傍から見れば無表情だったかもしれないが。
分からなければ分からない程、気になるというのが人間の性というもので。何度か機嫌を損ねない程度に訊ねてはみた。しかし、腑に落ちた返事は一つもなかった。
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