Parallel Lines

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「えっと、古橋くんはコンタクト取りに行くんだよね?ごめんね、時間取っちゃって」
「いや、構わない。少し余っていたんだ」
「それならいいんだけど…ここから近い?大丈夫?」
「ああ、ちょうどいい時間だ。少しでも遅れたらうるさい奴だからな…」
「そうなの?」
「愛もよく知ってる奴だ。あの、桐皇の糸目で、眼鏡の」
「…え、それって、今吉先輩?」
「ああ。うちと繋がっているんだ」


そうなんだ、と相槌をする。
何それ、初めて聞いた。真からも今吉先輩からも何も聞かされていなかった。
…きっと、今吉先輩は気を遣ってくれているんだろう。真は単に話すのも嫌だったのだろうけど。今吉先輩の事、昔から苦手だったし――


「愛は大丈夫なのか?」
「うん。私もその近くに用があるから、そこまでご一緒させてもらってもいい?」
「ああ、構わない」


ちらりと古橋くんの視線が私の片手にある閉じたままの傘に注がれる。
何を聞かれるのか。なんて返そうか。と考えを巡らせたが、特に何も言わなかったためその必要はなかった。
それから特にこれといった会話もなく、なんでもない世間話をしている内に古橋くんの目的地、もとい今吉先輩の勤務先へ到着。
立派な建物と綺麗なロビーからして、決して小さな会社という訳でもなさそうだ。


「じゃあ、俺はこれで」
「あ、うん。古橋くん、頑張ってね」
「ああ、愛もな」
「え…私?」
「だいぶ疲れているように見える。何かあったのか?」


「相談に乗ろうか?」と付け加え、こてん、と首を傾げる。さすが古橋くんというべきか。高校生の時も私体調を崩していることを見抜くのは、大抵真か彼だった。
実は先日真のいない間に離婚届を置いて家から出てきて今吉先輩の家に居候してます、だなんて言えるはずもなく。
昨日あんまり寝てないの、と告げると「そうか」と短く返事。古橋くんはそれ以上何も追求せず、「じゃあ、また」と言って一歩踏み出した。
しかし不意に思い出したようにくるりとこちらを振り向く。


「頑張れ」


ぽん、と1、2回頭を軽く叩き、無表情の彼にしては柔らかい表情を浮かべ、再び背中を向けた。
一体何に対しての激励の言葉だったのか。触れられた所に手をやり、首を傾げる。


「まさか、バレた、とか…?」


自分の呟きに首を振る。ない、それはない。きっと、たぶん、おそらく。
でも、もしそうだとしたら―――
不安に駆られ、彼が向かった方向へ顔を向ける。
そこには古橋くんの姿はなく、扉の閉まったエレベーターだけが視界に映った。
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