Parallel Lines

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そんな事をぼんやりと考えていると、目の前でひらひらと動く物体。
それが今吉先輩の手と気付くのには、しばらく時間がかかった。


「愛?どないしたん?めっちゃ遠い目しとったで」
「いや、ちょっと昔の事思い出してただけです」
「そーか?ならええんやけどな。しんどいんかと思ってん」
「まさか。今吉先輩は?」
「ワシは全然」


へらりと笑うと、先輩はホットコーヒーを啜る。途端に「熱っ」と口を離した。
ああ、猫舌は相変わらずなんだ。
年は変わったものの、やっぱり今吉先輩は今吉先輩だ。
そんな事を考えながら水で舌を冷やす先輩を見つめる。と、こちらに顔を向けた。


「なあ、なんで自分先輩付けるん?」
「え?あ、あー……何ででしょうね。慣れてるから、ですかね」
「もう先輩ちゃうから外したらええのに」
「駄目ですよ。昔は中学の先輩でしたが、今は人生の先輩なんで」
「一年先に生まれただけで重い責任背負わされたわあ……」
「ふふ、よろしくです」


そんな口実、ただの場しのぎにすぎない。
少しでも、昔と変わらない物を残しておきたくて、大切にしておきたくて――



そしていつかは、その中に真が入るのだろうか―――?




自問自答のはずが、肝心な答えが見つからず、そっとストローに歯を立てた。


「もう暗くなってきよった。冬やなあ………愛、帰ろか」
「あ、は、はい!」


いや、焦らなくてもいい。
いつか、見つかるだろう。
それまで、ゆっくり、ゆっくり、



答えを――――




ちょうどその頃、誰もいない家の鍵穴に持ち主である人物が鍵を差し込んだことなんて、知る由もない――――
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