Parallel Lines

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「―――――愛?」


不意に、背後から声がした。
咄嗟に振り向いた私の視界に、「どこかで会った、見覚えのある顔」がこちらを見ている。
いや、訂正する。最後に会ったのは「結婚式の会場」。そして、「見覚えのある」というにはあまりにも記憶に鮮明に残る人物が、立っていた。


「久しぶりやなー。なんや、こんなとこで何しとんの」


つん、と吊り上げられた目が、わずかに緩められる。


「先輩……どうして、ここに……」
「あー、ワシな、ここ住んどるんよ。んで、今コンビニから帰ってきたとこ。その途中で雨降ってきよるし、ほんまついとらんわあ…」


今吉翔一、先輩。
昔より口数が増えたのは久々の再開のせいか、はたまた年によるものなのか。どちらにせよ、今の私にとっては心の中に感情を塞き止めていた壁を崩す以外の何物でもなかった。
堪えてた何かが、心の中で一気に崩れていく。


「いまよ、っせんぱ、い…………ッ」


ぼろぼろと溢れ出てくる涙。


「え、ちょ、な、なんで泣いてんの!?」
「せんぱい……せんぱ、…っ」
「あー…よう分からんけど、ウチ来ぃ。もう遅いし、な?」


言われるがままに手を引っ張られ、自動ドアをくぐる。
電子音の軽快な音と共にロックが解除され、開くドア。
前へ進むように促す手から伝わる体温が、濡れて冷えた背中にじんわりと広がった。
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