Parallel Lines

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堪えきれずに何度目かの欠伸をする。
潤む視界に、時計の針が両方とも一番上にあるのが映った。


「………まあ、忙しいからね」


そう自分に言い聞かせると、丁寧に並べていた料理を片付け始める。

納得している訳ではない。
本当はやりきれない気持ちでいっぱいだ。
でも、相手がいないこの状況で誰にその不満をぶつければいいのだろう。

答えはただ一つ。


自分が我慢すればいいだけ



あまりにも単純すぎる回答に、呆れさえ込み上げてくる。


「はやく、帰ってこないかな」


無意識に開ける携帯電話。
そのディスプレイには何の通知もなく、ただいつものように背景画像を映し出すだけ。
まったく意味を成さないそれをベッドに放り投げ、続いて自分も倒れ込んだ。
不意に目を開けると、バックライトが消えたディスプレイが映り込んだ。
いつかは忘れたが、ここにいない人物と取った写真。
その中にいる自分が、今では想像もできないほど幸せそうで。
押し殺していた寂しさが急に押し寄せるのを感じた。
そっと画面を指で撫でる。
寂しさを紛わせるはずだった行為が、余計にその感情を膨らませてしまったらしい。


「…………真」


縋るように呼んでみた。
もちろん、当の本人からの返事はない。
2人暮らしの部屋には、時計の針が進む音だけが響く。


「ねえ、真」



私の声はあまりにも小さすぎて、響く事すらしなかった。
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