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□ずっと変わらないもの
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「き、黄名子が、僕のお母さん…?」
言われても信じられなかった。だってそうだでしょ?今まで力を合わせて戦ってきた仲間が、君のお母さんだよ、なんて言われても。
「フェイ…、うちね、フェイが心配でこの時代に来たんよ。」
こんな格好でお母さん、だなんて示しがつかないけど…と、苦笑していた黄名子。
僕はどうやら父さん似らしい。黄名子とは似ても似つかないからだ。
「うちはフェイがおっきくなる前に死んじゃったから、フェイがどの子か分かるかなーって不安だったけど、一目で分かったやんね!」
「え…うそ、どうして?」
「フェイとうちは、目がそっくりやんね!」
……本当だ…。
今まで、気づかなかった。確かに僕と黄名子は色こそ違うものの、目はそっくりだった。
「その…黄名子も、アスレイ・ルーンも、僕のために…色々、迷惑かかっちゃたみたいで…」
「何いってんのフェイ? 子供を守るのが親の役目!」
いつだったか、そう言っていた時と、黄名子は同じ表情をした。
「フェイ…確かにうちはフェイを生んで死んじゃったけど…後悔はしなかった…ううん、後悔ばっかりしてた」
「………」
「フェイを無事に産めたことはもちろん自分の事ながら誇りに思っているよ?
でもね、
フェイをこんな形でしか守れない事
フェイを残して逝ってしまった事
これからも成長していくフェイを一番近くでみてあげられない事
……まだまだ後悔してるよ…」
黄名子は僕の心に染み透らせるようにゆっくりと言った。僕は泣いていた。自分でも気づかないうちに。
「そんなっ…黄名子…自分の命が惜しくなかったの…っ?」
「もちろんフェイとずっと生きたかったよ。お医者さんだって最善を尽くしてくれた。その結果がこれなの」
「なんで、なんでそんな笑っていられるんだよぉ…っ」
僕はもう聞いていられなかった。黄名子は終始微笑んでいた。その姿は「母」そのものだった。
僕は目を片手で押さえてしゃがみこんだ。確かに自分から出ている嗚咽は、自分のものじゃないみたいだった。
「フェイ…もう行かなきゃ……」
「っ…き、黄名…子…」
「フェイ…最後に、うちのわがまま聞いてくれる…?」
「その…こんな格好でなんだけど…」
「お母さん、って…呼んで…?」
その時、黄名子の頬にも涙が伝ったのが見えた。
やだ、黄名子。最後なんていわないで。
黄名子。まだまだ僕には君が必要だよ。
泣かないで、お願い、母さんーーー
「っ母さん……っ!」
僕は、母さんに抱きついた。
強く、強く。
「母さん、っ」
「うん」
「母さん…っ!」
「うん…フェイ」
『ありがとう』
母さんと話をしたのはこれが最初で最後。
僕たちの非凡なちょっと過去の話。