Book

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※流血表現あるし気持ち悪い



「なぁなぁ風介。」信じられないと思った。無言電話をかけてきた奴が、昨日の今日で何事もなかったかのように話かけてくるのだ。無言電話の犯人が南雲だとは言い切れないが、私はほぼ間違いないと思っている。私はその場から無言で立ち去り、南雲を無視した。悪いが今は、南雲の顔を見たくなかった。


何で、風介は俺を無視するんだ?昨日の非通知電話の事怒ってんのかな。だとしても、怒りたいのはこっちだ。非通知電話かけた後、フォローしなきゃと通知で電話をかけたのに風介は出ない。もう一度かけると今度は切りやがった。なんだってんだ。向こうはスゲー怒ってるみたいだからまともに話聞いてくれねえな。さて、どうすっな…。


朝話かけたっきり、南雲は話しかけて来なかった。内心ホッとしたけど、どこか不気味だった。いや、もう考えるのはよそう。家に着いたら、コーヒーでも飲んで心を落ちてかせよう。そう思って自宅のドアの前に立つと、先客がいた。笑顔の南雲だった。玄関前のドアに背を預けてしゃがんでいた。サッと、血の気が引くのが分かった。ここにいてはいけない。もと来た道を戻ろうかと足を引いたところで、南雲が私の腕を掴んだ。「『また明日』って言っただろ?」



ただ今俺は、涼野の家のリビングでくつろぎ中。あん時ちょっと虫の居所が悪かった俺は、「入れてくれよ?」といいながら腕を掴む力を強めた。そしたら涼野は案外すんなり家に上げてくれた。今涼野は俺のためにコーヒーを入れてくれてる。なんか新婚みたいだ。俺の向かいに座った涼野。俺は一番聞きたい事を端的に聞いた。


「…前も言ったけど、何で俺を避けんの?」何でだって?そうさせてるのは南雲なんじゃないの?この際だから言ってしまおう。南雲は異常だ。男が好きだなんて狂ってる。それだけじゃない、わざわざ非通知で電話をかけたり、私の後を尾行してたなんておかしいよ。私が熱弁しても、南雲はきょとんとしていた。南雲はこの行為を悪い事と認識していなかった。だから怖いのだ。事の重大さを認識してほしい。


「男が男を好きになっちゃいけねぇのか?!」「世の中ストーカーしてまで相手の家が知りたい奴はいっぱいいるだろう?」「何が異常だ!?何が狂ってるだ!偏見持ってるお前のがよっぽど異常だぜ!」
俺は飲みかけのコーヒーカップを風介めがけて投げた。風介が避けたので後ろの棚にガシャンとぶつかる。割れちまった。物に当たっても、俺の怒りは収まりそうになかった。


ガシャン!私の真後ろでコーヒーカップが割れる音がした。南雲は私の事を異常だと、この状況下でも彼はそう言い切った。南雲は私との距離をじりじりと詰める。私は後ずさりもできずにその様子をみていた。手が震える。南雲は、私を一発殴った。激しい衝撃に耐えきれず、少し吹っ飛ぶ。そしてじわじわと痛みが広がっていく。このままじゃ殺される、確実に。私は吹っ飛んだ先の棚に手をかけた。


風介は棚から包丁を取りだし、俺に突きつけた。脅迫のつもりか?「そんなガクガクの脚で俺を刺せるのか?」やってみろよ、と挑発してみせた。あの穏やかで、温厚な風介にできるわけがないと分かった上でだ。風介は叫んだ。雄叫びといってもいいだろう。
え、…嘘、だろ…。

風介は俺の胸の真ん中あたりを刺した。


南雲の白いシャツが胸の辺りから赤にどんどんにじんでいく。南雲は口からも少量の血を吐き出していた。がくんと膝まずいて、私の上に倒れた。南雲は言った。


「…お前に、まさか…殺されるなんて思わなかった…。
でも、お前が俺を殺して、…お前は罪の意識から一生…逃れ、られずにっ…お前は、死ぬまで、俺を忘れないんだ…。」

「忘れたくても…、お前が俺を刺したときの感触が、いつまでも指先にまで残ってるんだ…。」


「お前に殺されるなら、…俺は、本望だよ…」


南雲は私の耳元で囁いた。
言い終わるとほぼ同時、南雲は私にキスをした。

…ひどく濃い、血の味がした。

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