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□ある夏の日の出来事
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「はい、風介の分」
空がうすいピンク色から紫色へかわりかけた頃。修児から渡されたのは、オレンジ色した短冊とペン。ああ、今日は七夕か。
お願い事でも書けというのか?と修児に問うと毎年恒例じゃないか、と正論を言われてしまった。
確かに子供の頃はサッカーが上手になりたいとか、可愛いお願い事をしたもんだけど私はもう高校生だ。こんなので願い事が叶ったら誰も苦労しない。さすがにサンタも妖精も信じなくなってしまったし。
「風兄、僕の短冊、竿のてっぺんにつけて!」
「うん、いいよ。貸してごらん」
血は繋がっていないが、可愛い可愛い弟。頭をくしゃっと撫でて立ち上がり、竿のてっぺんに手を伸ばした。
『大きくなったら、サッカー選手になりたいです』
この子の短冊にはこう書いてあった。数年前私が願った夢と同じ…。
“夢”は所詮“夢”にすぎない。私はもう“現実”を知ってしまったから、もう、あのキラキラした“夢”なんかみれない。
「……ほら、つけたよ」
「ありがとー!風兄は短冊になんて書いたの?」
正直今の私の願いは叶うはずない。だから書いても意味がないと思う。
いいなぁ、子供は。天使や悪魔、神様なんてのもいるって信じているんだ。先の事は考えないで、自分の思考だけで動いて。どんなに馬鹿な願いでも、叶うって信じているもん。
だから私は、大人になんかなりたくないんだ。
子供のままなら、いくらだって夢が見れる。どんなに叶わない夢だって、いつか叶うと信じていられる。
私の、私の叶わない願いはーー。
「風介」
「………は、るや…」
「短冊かざろーぜ」
晴矢と、ずっと一緒にいたい。
「晴矢の願いって、なに?」
「あぁ?……内緒だよ」
「いいじゃないか。見せて!」
晴矢の手から短冊を奪い取った。晴矢は返せと言いながら追いかけて来る。私は逃げながら短冊に目を落とすと、端っこの方に、小さい文字で……
『風介とずっと一緒にいられますように』
晴矢はカンカンに怒ってるが、私は思わず笑ってしまった。乙女か。
「俺のみたんだから、あんたのも見せろよ!」
私の顔に突きつけられたら手に、素直に短冊を置いた。晴矢は拍子抜けた顔をしてから、まじまじと短冊を眺めた。
「…あんた…可愛くねぇな。」
「そう?晴矢は可愛いいけどね」
『願いが叶いますように』